「ドイツ帝国」が世界を破滅させる
副題:日本人への警告
著者:エマニュエル・トッド/著 堀茂樹/訳 出版社:文藝春秋(文春新書) 2015年5月刊 \864(税込) 230P
(昨日からの続き)
2冊目は、フランスの雑誌やインターネットサイトに掲載されたトッド氏へのインタビューをまとめたものである。
トッド氏はヨーロッパ共同体はまもなく崩壊すると考えており、本書に収められたインタビューでも、ヨーロッパの最終的危機、フランス民主主義の崩壊、ドイツの覇権の浮上、ロシアとの紛争の激化などを論じている。
ユーロという単一通貨を導入したことによって、ヨーロッパはドルに対抗できる通貨を手に入れた。
しかし、EU加盟国が独自の通貨政策を行えないことにより、ドイツだけが経済的にひとり勝ちしてしまった。ユーロをやめてドイツの独走を止めないかぎり、ヨーロッパには大変な危機がやってくる、というのがトッド氏の主張である。
「私は意図して論争的な言葉遣いをしています」と書いているとおり、トッド氏は破壊的な意見を吐いている。
たとえば債務危機への対処方法。
借りたカネは返すのが契約社会が成り立つ基本である。
しかし、トッド氏は、
主権国家の政府債務が返済されることは絶対にないのです。
と言いきる。
債務を解消するには「輪転機を回す」か、「債務のデフォルトを宣言する」しかない。
デフォルトを宣言すれば、一時的に混乱は起こるが外科手術のようにすっきりするので、トッド氏はデフォルト宣言を勧めている。
デフォルト宣言せずに、ずるずると国債の利子を払っているのは、富裕層が国の資産を飲み込むのを放置するのと同じである。
フランスも銀行を国有化して少額預金者を保護する準備をし、デフォルトを宣言すれば国が若返える、と主張する。
トッド氏が本書で何度も強調しているのは、ドイツへの不信である。
たとえば、EUの中心的立場にいながら、ドイツが単独行動しはじめたことを、トッド氏は次のように警戒する。
一例を挙げておきましょう。大陸全体に関わるマターであるにもかかわらず、ドイツは近隣国とどんな事前協議もすることなしに、脱原発を選びましたね。この政策はロシアとの戦略的合意を予想させますが、誰ひとり、特にエコロジストは、公共の場での討論でこの点に言及しません。
また、人口学者、人類学者としてドイツを次のように分析する。
あの国は直系家族、これは子供のうちの一人だけを相続者にする権威主義的な家族システムなのですが、直系家族を中心とするひとつの特殊な文化に基づいています。そこに、ドイツの産業上の効率性、ヨーロッパにおける支配的なポジション、同時にメンタルな硬直性が起因しています。
ドイツは歴史上、支配的なポジションについたときに変調しました。
ドイツへの不信は、真の民主主義国ではない、との疑念にまで発展する。
ドイツではここ数年、賃金が据え置かれたり、引き下げられたりしています。ドイツの社会文化には権威主義的なメカニズムがあって、国民が相対的な低賃金を甘受するので、ドイツの政府と経済界はその面を活用し、ユーロ圏の各国への輸出を政治的に優先したのです。ベルリンが最大の貿易黒字を実現しているのはユーロ圏内においてです。
ヨーロッパのパートナー国の利益に反するこのような政策はことごとく、しばしば社会民主党をも含む連立内閣によって実施されました。これは結局のところ、真の政権交代というデモクラシーの原則を揺るがせる事態です。
こうして、問題は歴史のむごい再来という形をとって現れてくる。ヨーロッパシステムにおけるデモクラシー退化の中心的なファクターは、実はドイツではないでしょうか?
ドイツとフランスは仲が悪いときいていたが、これほどあからさまにドイツ不信を公言されると、ちょっと引いてしまう。
しかし、ギリシャの債務問題の奥に、トッド氏の指摘するようなEU統合の構造的問題があるとすると、ヨーロッパ発の世界的危機が来ないとも限らない。
国際ニュースを深く読み解くため、一読をお勧めする。
参考書評
エマニュエル・トッド著『帝国以後』の書評は → こちら