エンロン崩壊


副題:アメリカ資本主義を襲う危機
2003年1月刊  著者:藤田 正幸  出版社:日本経済新聞社  \1,680(税込)  285P


エンロン崩壊―アメリカ資本主義を襲う危機


エンロンワールドコム破綻のニュースを耳にしたとき「アメリカの大きな会社が倒産したんだな」という感想を持っただけで、特に関心はありませんでした。山一證券をはじめとする日本企業の破綻はマスコミにも大きく取り上げられ、子供が大学進学を断念するケースや中高年の再就職の厳しさなど、人ごとで済まされない切実さがありました。アメリカ巨大企業の倒産にもたくさんの悲劇があったはずですが、報道で目にしないので想像する機会もなかったのです。


本書を読んで、まず胸を突かれたのが2万人あまりの元社員を襲った老後資金の喪失です。エンロンの経営を信じていた社員の多くが自社株に401k(確定拠出型年金)を投資していましたが、会社の破綻・株価暴落により老後の蓄えを失いました。娘のウェディングドレスも買えなくなった、ろくな治療も受けられず癌で亡くなった、という実例には言葉を失います。
しかも、経営危機が報じられる中で「管理委託先を変更する」という理由で会社は401k口座を凍結しました。一般社員が目の前で株価が急落するのを見ているしかない中で、エンロンの上級役員は自分達の株をしっかり売り抜けたのです。それは、まるで映画「タイタニック」の1シーンのようだった、と後にロン・ワイデン上院議員は憤慨します。沈没しかけたタイタニック号から金持ち達が先に救命ボートに乗り、三等客室の出口が閉められる映画の場面さながらだ、というのです。


株式投資が盛んなアメリカでは「企業の経営状況が投資家に公開され、各付機関の独自調査や監査法人がその内容をチェック・裏付けする」ことになっていました。ところが、超優良企業のはずのエンロンが、実は嘘八百の会計報告で株価をつり上げていた。各付機関はエンロンの嘘を見抜けず、監査法人アーサー・アンダーセンエンロンの嘘に荷担していた、というのですから何をか言わんやです。エンロンの破綻はアメリカ資本主義を脅かす大きな事件になりました。


本書では、ケネス・レイ会長ら最高幹部たちの生い立ちや人物像にも言及し、カリフォルニアの電力危機、エンロンに続くワールドコム破綻などのトピックも取り上げ、エンロン破綻と関連事件の全貌を明らかにしてくれます。


それにしても「グローバルスタンダード」と呼ばれているアメリカ経済のしくみが、こんなにもいい加減なものだったとは……。日本でも電力自由化を目指した体制作りが進んでいるようですが、自由化によってニューヨーク大停電のような惨事が生じるような事態だけは避けてもらいたい。そう思いました。


著者の藤田正幸氏は三菱総合研究所主席研究員で、電力市場の規制緩和にからみ99年から電力デリバティブの調査に従事してきました。調査の一環で破綻前のエンロンリスク管理担当役員と親交をもっていたことから本書を執筆した、というちょっと珍しい成り立ちで本書は出版されました。


エンロンが行なった会計操作は、ダミー会社に赤字を押し付け、連結から外す、というものでした。(もうちょっと複雑だったようですが、私なりに単純化すると、こういう理解になります)
先日紹介した孫正義の評伝『幻想曲』に、孫氏も同じような不透明な会社を運営していることが書かれていました。マネーゲームの世界は、綱渡りの連続で勝ち抜いていくしかないようです。つまづくと、ダイエーのようになってしまいますからね。(エンロンソフトバンクダイエーの関係者の方が読者におられましたら、ゴメンナサイ)


本書を読んで、資本主義の未来をいろいろ考えてしまいました。ご一読あれ。