上京ものがたり


2004年12月刊  著者:西原 理恵子  出版社:小学館  \820(税込)  56P


上京ものがたり


『毎日かあさん』シリーズでは目をつりあげて殺伐とした光線を発しながら子育てに奮闘している著者ですが、この自叙伝コミックでは作風が違います。
出版社が「ハートフルコミック」と呼ぶ作品の主人公は、何があっても哀しそうに微笑んでいる女の子。絵が好きで、いつか絵を描いて生活できるようになりたい、という田舎出身の女の子です。


東京に出てきて、一ヵ月バイトした最初のお給料は、家賃とお米と絵の具代に消えていきました。あこがれのマルイに行くための、きちんとした服を買うにもほど遠い生活が始まります。
男と同棲するようになりますが、カレは仕事をせずに毎日ぶらぶらしています。彼女はすこしでも時給のいいバイトを探すうちに、お酒を運んでお客様とお話をするウェイトレス、時給1400円! に応募しました。行ってみたらそこは、新宿歌舞伎町のミニスカパブ。こうして、主人公は水商売に浸かっていくようになります。
店長にどなられたり、客に嫌な思いをさせられたり、相変わらずカレが働かなかったりする日々が延々と続くなか、ある日、エロ本のカットを描く仕事が入ってきて、彼女は「やったあ」と何度も心の中で叫びました。


仕事が順調になり、入ってくるお金が少しずつ多くなってくるに従って、彼女の生活も少しずつ変わっていきました。築40年だけどお風呂のあるアパートに引越しができる、毎日行ってた夜の店のアルバイトが週3回になり2回になり、とうとう辞められることになる。二人で飼っていたネコが死んだのをきっかけに、カレシとも別れました。
そして、大きな出版社の有名な雑誌に連載がはじまった時、エロ雑誌から
「今回でおしまいにしましょう。もしまた仕事がなくなったら、いつでもおいでよ」
と卒業を告げられました。


彼女は、毎日毎日、マンガを描く仕事に追われる売れっ子になりました。忙しいのがこんなにウレシクて、シアワセだとは思ってもみませんでした。
「本当はながいながい夢をみてるんじゃないか」
と今だに思う、とのこと。
疲れている人、悲しい人、くやしい人、そんなつらいことをずっとがまんしている人、そんな人に自分のマンガを見てもらって、ちょっとだけ笑ってもらえたら、うれしいなあ。そんな仕事を続けられていることに感謝する彼女です。


よんでもらって
わらってくれたら
すごくうれしいです。
ちょっとだけ
ちょっと。