ルポ貧困大国アメリカ


著者:堤 未果  出版社:岩波新書  2008年1月刊  \735(税込)  207P


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日本でも「格差社会」という言葉がはやりましたが、本家本元のアメリカでは、日本では想像できないくらい貧富の差が拡大しています。庶民の暮らしがどれだけたいへんなことになっているか、ということを多くのアメリカ人へのインタビューを通して明らかにしているのが本書です。


著者の堤さんは、日本でも話題のサブプライムローン問題からルポをはじめました。
日本のニュースでサブプライムローン問題は、金融機関の不良債権の問題として扱われています。しかし、あたりまえのことですが、金融機関の問題になる前に、この金利の高い住宅ローンを支払えなくなった多くの人々の問題がまずあります。


堤さんは、ローンを払いきれなくなったメキシコからの移民家族を登場させました。


この国で家を持つという夢を実現するチャンスです。
高級スーツを着こなすセールスマンの甘い言葉にのせられ、ローンを組んではみたものの、働いても働いてもローン残高は減りません。とうとう家は差し押さえられ、家族の暮らしは最底辺に転落してしまいました。


暗い気持ちにさせられるこんな悲劇も、まだ序の口です。
本書には、格差拡大によって悲惨な生活を強いられている人たちが次から次と登場してきます。


人災だったハリケーン、学校の民営化による不平等の拡大、世界一高い医療費で破産する人々、貧しさから逃れようとする若者を戦場へ送り込む軍隊。一部の金持ちを除き大多数のアメリカ人が苦しんでいる様子を、堤さんは丹念に聞いてまわります。


日本人のインタビュアーがよくここまで聞き出した、と感嘆した中から、あと2つだけ引用させてもらいます。


ひとつは、キューバから亡命してきた家族の話。


キューバは平等の国だがチャンスがない。アメリカンに行けばある。アメリカン・ドリームを求めてやって来たものの、病気にかかってもこの家族は治療をうけられません。高額な医療保険に入れないからです。


医者にかかれないまま、1歳の息子が疫病で死んだとき、母親は言いました。
「もしもこれがキューバだったら、あの子は助かったわね」


ここで堤さんは、アメリカ乳児死亡率が先進国で最も高い水準であることを示す数字を挙げます。(1000人あたり日本3.9人/年に対し、アメリカは6.3人/年)


アメリカの貧しい人々は、お金持ちよりも命が危ないのです。



もうひとつは、笑わない看護師さんのお話。


より多くの収益を求める病院は、経費削減のために、まっさきに看護師を減らします。人が減ったぶん、一人当たりの仕事量が増えていくので、看護師たちは睡眠時間を減らすしかなくなります。


子どもが大好きで念願の小児科で勤務することになったある看護師も、やはり日常的に仕事に追われるようになりました。
あるとき、「看護師さんの顔が怖いから病院に行きたくない」という患者の話を聞き、この看護師はショックを受けます。


「子どもが大好きでこの仕事を選んだのに、いつの間にか子どもたちに笑顔を見せる気持ちの余裕もなくなっていた」
彼女は、仮眠室に行ってこっそり泣きました。看護師はみな疲労困憊し、毎日自己嫌悪に陥っているのです。


世界一の経済大国・軍事大国のアメリカの暗部を告発する一書でした。