1998年6月刊 著者:藤原 和博 出版社:日本経済新聞社 \1,365(税込) 238P
「親と子が小さな事件を乗り越えて家族となる心温まる物語」という帯のことばに惹かれて手に取りました。
本書はサラリーマンの著者が、父親になって初めて息子と面と向き合って対話することで、自分の“父性”に目覚める自己発見の物語です。
仕事に追われるお父さんはもちろん、「俺はきちんと遊んでやってるぞ」というお父さんにも“真の父親とは何か”を考えるきっかけになる本です。
著者は民間から初めて都内公立中学校の校長に登用された藤原和博氏です。藤原氏はリクルート社で新規事業を担当していました。38歳でロンドン大学ビジネス・スクール客員研究員になり、イギリス滞在中にヒントを得た新規事業として、帰国後個人情報誌「じゃマール」を創刊した人です。
会社からの留学生として妻と4歳の息子を伴ってロンドンに着任した著者は、2番目の子どもを出産間近の妻に代わって子どもの学校に関わります。それまではただ遊んであげる対象だった息子と対話を繰り返すうちに、初めて幼児の世界を理解するきっかけを得ました。
自分は本当の「父」ではなかった。父を演じていただけだった、という著者のことばは衝撃的です。ここだけ読むと、まるで子育てを放棄していたお父さんが言ったように聞こえますが、著者は子ども好きで育児も“よくやるほうのお父さん”でした。
そんな著者が慣れない異国の地で仕事に格闘しながら、学校になじめない息子と向かい合うことを余儀なくされます。
あるとき、食べるのが遅い息子から「どうして、食べるのがそんなに早いの?」と言われたことが心に残り、折り重なるようにして著者の中で渦巻きました。
著者は気付きます。「私は呪縛されていたのだ。受験によって。時代によって。社会によって。会社によって。そして何より、仕事そのものによって。“早く、ちゃんと、いい子に”三拍子そろった標準的なサラリーマンとして」
しばらくして著者は、息子をこの呪縛から逃がしてやりたいと強く思うようになりました。息子を呪縛から逃がそうとするとき、同時に自分自身も同じ呪縛から解放される、という実感をした著者は、次の言葉で本書を締めくくりす。
「子は父を育てることがある」
私も著者と同じく、よく子育てに参加していると自負してしますし、父親である喜びも人一倍感じています。ですから、著者が発する「真の父親とは」という問いかけにはドキッとさせられました。
う〜〜ん。自分は真の父親かなー……。
ただ、著者と生まれも育ちも違いますから、著者が子育てを通じて感じた「早く、ちゃんと、いい子に」という“呪縛”は、私は感じていません。北海道の山奥で酪農をする両親に育てられた、という育成環境のおかげです。
仕事でお会いするお客様からも「おおらかそうで、いいですね」と言われます。ひょっとすると皮肉を言われているかもしれないのですが(笑)、褒め言葉と感じてしまうオメデタいところが、著者とは違うところでしょう。
もちろん、読者一人ひとりが著者とは違った“呪縛”を持っています。「子育てに正解はない」という意味のことを著者が言っていますから、私もこれまで以上に子どもとの係わり合いを考えてみようと思います。
余談ですが、転勤で関西に1年だけ住んだことがあります。兵庫県西ノ宮市の社宅で知り合った方は、子どもによく「かしこくするんやで」と言っていました。関東で言う「いい子にしているのよ」という意味のようです。
いい言葉だなー、と感じましたので、我が家の子育てでも使わせてもらっています。