2004年5月刊 著者:赤川 次郎 出版社:新潮社 \1,365(税込) 281P
著者の赤川氏は『イマジネーション』(5月19日のブログ参照)で、「最近きなくさくなった日本が戦争への道を進まないように、小説家として何かメッセージを発信していきたい」という意味のことを語っていました。
本書に登場する日本社会は、首相が手段を選ばずに言論弾圧をするようになっており、首相の意向に逆らった主人公の作家は海外での亡命生活を余儀なくされます。
妻を殺され、異国の漁村でひとり息を潜めて暮らしていた主人公は、ある日、水死した地元の漁師の第一発見者になります。日本の作家が水死者を発見した、というニュースが、何を間違ったのか、「日本の作家が水死した」と誤って伝えられ、物語が動きはじめました。
主人公を憎悪している首相は、文芸担当者(芸術家を国家施策に協力させる役割)を派遣して死亡を確認させようとします。
一方、危険人物の家族として監視されながら暮らしていた娘も、小さな子どもを伴って父が死んだ場所に向かって旅立ちます。更に首相が派遣した暗殺者も港町へ向かい、関係者全員が合流した時に起こったことは……。
さすが売れっ子推理作家だけあって、息をつかせずに一気に読ませます。
首相が平気で殺人を指示しても誰も異を唱えられない異常な社会、というのは少し非現実的な気もしますが、それだけ赤川氏が感じる危機感が強いのでしょう。
確かに、太平洋戦争戦時下の日本では、作家も率先して戦争を応援する活動をしていました。「こんな恐ろしい社会にしてもいいんですか」という赤川氏の声が聞こえるようです。