福助戦記


副題:老舗企業再生のウラ側すべて見せます!
2005年3月刊  著者:「福助戦記」編集委員会  出版社:ゴマブックス  価格:\1,470(税込)  213P


老舗企業再生のウラ側すべて見せます!―福助戦記


会社の業績が悪いけどまさか潰れはしないだろう、と社員誰もが思っていた老舗「福助」。しかし、明治15年創業のこの会社も1998年に赤字転落してからわずか5年後の2003年6月に民事再生法を申請するに至りました。本書は、破綻した後の経営を引き継いだ企業再生ファンドが、わずか一年間で会社を変革し、見違えるように再生するまでを描いた「戦記」です。


福助再建に乗り込んだのはMKSパートナーズの川島隆明と元伊勢丹カリスマバイヤーとして有名な藤巻幸夫
二人は次々に再生のための行動を起こします。本社を大阪の堺市から東京・原宿へ移転、約300人の社員全員との面接、新スローガン「進化する老舗、福助。」の発表、フェーズ1,2,3に分けた再建計画の立案と実行。
2003年末の面接では、社員たちの「やりたい仕事」を聞き、実現に向けた課題を聞きました。中に不平不満を並べるだけの社員がいると、藤巻社長は「何いってんだ! ふざけるんじゃねえ」と怒鳴りつけます。企業が再生するためには、新しいトップの存在も大切ですが、社員一人ひとりが意識改革をしなければならないからです。
単に怒鳴るだけでなく、きらんとフォローします。「不満ばかり言っているんじゃなくて、1年間死に物狂いでがんばってみろ。どうやれば不満を解消できるかを考えてみろ。そして這い上がってこい。そうしたら、必ず好きなポジションにつけてやるから」と。
一方で福助の伝統や歴史を大事にしている藤巻の姿を見た社員は、「人間なんてそんなに簡単に変われるものではないと思ってました。けれど、あのとき、自分の中に何か新しいものが生まれたような気がしています」と述懐しています。


経営者ではない私ですが、「キャッシュフローキャッシュフローキャッシュフロー!」など、参考になる話題もたくさんありました。
今までの常識を破るという意味でちょっと意外だったのが、ヘッドハンティングで入社した東野香代子の言葉です。
東野はあの「エルメス」の企画広報の責任者として、業界では名前が知れ渡っています。その東野の福助の製品評価は「品質の優れたモノを作ってきた会社という割に福助らしい定番がない」ということです。その原因の一つは「営業の意見を聞きながら商品を売りやすいように変えていく、という福助の方法にある」、と彼女は分析します。朝礼でふた言目には「もっと営業の意見を聞いて」という言葉が出てきますが、東野は「営業の人は、内部で意見を言っているあいだに売ってきたらどう?」と思ってしまう、とのこと。
福助に限らず、「お客様の声をよく聞く=営業の意見をよく聞く」という会社は多いと思います。しかし、製品に絶対の自信を持っているエルメスでは、デザイナーが営業の意見を聞いて商品やパッケージを変えるなんてことはない、とのこと。製品作りに一般の常識とは違う逆の発想があることを教えてくれました。


社員の意識が変わり、企業が再生していくドラマは、どのページを開いても生き生きとしていて元気が出ます。
お薦めです。