ユニセフ最前線


副題:戦争を止めた人間愛
2004年11月刊  著者:井上 和雄  出版社:リベルタ出版  価格:\1,575(税込)  222P


ユニセフ最前線―戦争を止めた人間愛

本書は、1983年から95年までユニセフに勤務した著者の現場での経験と、ユニセフのあゆみを紹介したものです。
緒方貞子さんがUNHCRのトップ(国連難民高等弁務官)になってから、国際機関の日本人職員の活躍が目につくようになりました。国際舞台に登場する日本人が増えることは、とても誇らしいことです。

著者はユニセフ職員としてインドの子どもたちの予防接種等の「子どもの生存革命」に奮闘します。貧しさとの戦い、現地官僚との交渉、トイレの普及、迷信・偏見との戦いなどの詳細が第1章、第2章に活写されています。
なんといっても、本書の圧巻は、つづく第3章から5章に紹介されている三代目ユニセフ事務局長ジェームス・グラントの活躍です。彼は、ユニセフはそれまでの10倍から50倍の力を持って悲惨な社会を無くすことに貢献すべきだ、とビジョンを示し、先頭に立って実現していきます。
1985年のエル・サルバドルの内戦では、子どもたちに予防接種を行なう時間を作るため、政府と反政府ゲリラの間で一時停戦を約束させます。同じことを1987年にレバノンで、1989年にはスーダンに乗り込んで実現しました。彼がどのような“魔術”を使ったかは本書を読んでいただくとして、このような難事を成しとげる基になったのは彼の子どもの頃の体験です。父の仕事の関係で中国北京で少年時代をすごした彼は、寒い冬の朝に、道端で凍死しているホームレスの人々を毎日のように見かけました。こうした悲惨なできごとをこの世からなくしたい、という思いが、軍人との困難な交渉を成功させる力になったのでしょう。


本書を読んで、日本人として誇らしかったのは、日本の拠出金額が世界一ということ。日本人として恥ずかしかったのは、もっと積極的な子ども施策を行なうよう国連から勧告されていることです。
勧告の中には、「子どもが性的な被害を受けないための措置が不十分である」とか「子どもたちを麻薬とアルコールから守る措置が不十分である」というものもありました。日本は食べることに不自由しない国でありながら、本当に恥ずかしいと思います。


いままでは、世界の子どもたちの環境や地域紛争にあまり関心がありませんでしたが、本書を読み終わってみると、新聞の国際面に眼がいくようになりました。2005年2月16日の朝日新聞は、スーダンの南部で今年の1月まで22年にもわたって内戦が続いていたことを論説していました。民族根絶を目的としたジェノサイド(集団殺害)の疑いも出ているそうです。また、1994年にルワンダで起きた大虐殺を描く映画も紹介されています。
ふたつとも、なんとなく名前だけ聞いたことがある、という遠い国の紛争ですが、まず知っていくことが大切なんだろうと思います。
私自身、まったくユニセフに縁がないわけではなく、もう5年以上前にクレジットカードの残りポイントをユニセフに寄付したことがありました。それ以来、毎年日本ユニセフ協会から、ユニセフ活動内容の紹介といっしょに寄付依頼が送られてきます。最近は、ほとんど中を見ずに捨てていました。今度送ってもらったら、開封して中を見ることからはじめようと思います。