前田建設ファンタジー営業部


2004年11月刊  著者:前田建設工業  出版社:幻冬舎  \1,300(税込)  228P


前田建設ファンタジー営業部


バブル崩壊後の建設会社は厳しい経営環境に立たされています。
このままではジリ貧だ。わが社も新規ビジネス開拓部門を新設することにする! と発足したのがファンタジー営業部です。
土木・建設業界は「同じパイを取り合う」と言われる業界ですが、この新規ビジネスは、他社が一切手をつけていないお客様にアタックします。その商談相手とは、映画、テレビ、マンガの劇中世界に住むお客様でした!


この設定、笑えます!


ダム建設現場のA所長、エンジニアリング部B主任、建設設計部C主任たちが召集されます。ふつう、新プロジェクトに挑戦するというのは誇りと緊張感に満ちているものなのですが、みんな戸惑うばかりです。
最初に「空想世界対話装置」を通じて建設依頼を受けたのが、「マジンガーZ格納庫」です。
さっそく、メンバーの中でもアニメに詳しいD職員の知識とビデオを頼りに、みんなでブレーンストーミングしながら設計仕様を決めていきます。
  マジンガーZの大きさってどのくらい?
  格納庫を建設する光子力研究所ってどこにあるの?
  格納庫の大きさは? 強度は? 地盤は大丈夫?
自分たちだけでは結論の出ない疑問も多く、関係部署に相談に行きます。耐震設計のプロ、岩質地盤の専門家、「まーた親会社が無茶言ってきた」と笑いながら相手をしてくれた関連会社の大型機械製造のエキスパートたち、等々。困難な課題を一つひとつ解決していく過程は、読んでいてワクワクします。
水を満々とたたえた格納庫のフタはアニメの世界でしか動かないと思われましたが、ダム建設の技術を応用すれば実現できることも分りました。
最終的に光子力研究所に提出した設計書と見積は……、結果は本書をご覧ください。


このバーチャルなプロジェクト(しかも社内ボランティアらしい)は、本を出した後も活動を続けていて、その後の活躍が http://www.maeda.co.jp/fantasy に載っています。ふたつ目のプロジェクトは「銀河超特急999号発着用高架橋」。ファンの人には必見です。


いままで「アニメの世界がいかに非現実的かを科学的に論じる」という本はありましたが、「アニメの世界を現在の技術で実現する」という本はこれが初めてではないでしょうか。
東京湾アクアラインのトンネルの一部を前田建設が担当したことや、富士山も見える立派な本社ビルをさりげなく紹介していますから、前田建設工業株式会社の知名度アップにもなるでしょう。
会社にも読者にもうれしい、一粒で二度おいしい本でした。