トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく


著者黒柳 徹子,鎌田 實  出版社:ソフトバンククリエイティブ  2007年7月刊  \1,575(税込)  279P


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ユニセフの親善大使として旱魃や飢えに苦しむ国々の訪問を続ける黒柳徹子さんと、チェルノブイリ原発事故の被害者やイラクへの医療支援を継続中の鎌田實さんの対談本です。


日本よりはるかに貧しい国で出会ったエピソードを紹介しあいながら、二人のはなしは、自然と生い立ちや家族、生きる力を与えてくれた恩師の教えに続いていきます。


黒柳さんは、小学校を退学になった経験をもっています。理由はいろいろあったそうですが、たとえばツバメが巣を作っているのをみつけて、授業中に窓をあけて「何をしているの、何をしているの」と話しかける。授業をすすめようとする先生が困っていることに気づかず、先生と話をしたくて職員室に行く。
ちょっと変わった子どもだったのです。
いま教育現場でLD(学習障害)とかADHD(注意欠陥/多動性障害)が話題になっていて、2002年の文科省調査で小学生・中学生の6.3%が該当することが分かりました。
子どもの頃の体験が『窓ぎわのトットちゃん』で有名になった黒柳さんは、自分でLDと言ったわけでもないのに、LDの本の半数に
  「黒柳さんはLDだった。でもちゃっとやってる。だからがんばろう」
と断定されているそうです。
でも、黒柳さんは、自分がLDだったかどうかなんて気にしていません。同じくLDだったと言われているアインシュタインエジソンは、特定の分野で天才的な才能を発揮した。自分だってケーキを簡単に17等分するなんていう変わった才能を持っている。その子にしかない、良いところをみつけてあげればいい、と語ります。
幸いなことに、黒柳さんは転校先のトモエ学園ですべてを受け入れてくれる小林校長先生に出会い、自分を信じることができるようになりました。


鎌田さんは、心臓に病気をかかえる母親と、治療費を工面するため一生懸命はたらく父親に育てられました。
鎌田さんが医学部を受験したいといったとき、父親は大反対しました。たとえ国立大学に合格したとしても、乏しい家計では大学に行かせてやれないと思ったからです。奨学金とバイトで自立すると宣言してやっと認めてもらったとき、鎌田さんは、2つの約束をさせられました。
ひとつは、弱い人を大事にする医師になること。もうひとつは、自分の責任の中で生きていけ、ということでした。
東京の国立大学を卒業して、“都落ち”と言われながら信州の病院へ就職することを決めたときも、チェルノブイリイラクの病院を支援すると決めたときも、父親との約束が背中を押してくれます。


社会に出て、女優の道に進んだ黒柳さんは、なかなか認めてもらえませんでしたが、出演したラジオドラマの作者だった飯沢匡さんに出会い、道が開けます。
新人ドクターとなった鎌田さんも、自分の診療科目以外の先輩ドクターに目をかけてもらうようになります。診察のしかた、診断のしかたを具体的に教えてもらうなかで、患部だけに注目せずに患者を全体で診ることの大切さを学び、一生の財産となりました。


そんな2人が、国際的な活動をするようになって感じたのは、日本人の生きる力が弱くなっているのではないかということでした。
日本で子どもたちが生き生きとしている姿を見ることは少なくなり、日本よりずっと貧しくて大変な環境で生きている子どもたちのほうがもっと目を輝かせている。


  「何かぼくたちの国づくりは間違っていたんじゃないかと
   考えさせられる」
と鎌田さんは語ります。


本書の章立ては「かぞく」「いのち」「やくそく」など、ひらがなの名前になっていて、表紙や各章のはじめには、いわさきちひろの柔らかな水彩画をカラーで載せています。(黒柳さんはちひろ美術館の館長)


こういう本は速読に向きません。
私も、1日1章ずつ、いとおしむように読ませてもらいました。


ゆっくりと、2人の会話に耳をかたむけてみましょう。