原書名:Why Smart Executives Fail〈Finkelstein, Sydney〉
2004年6月刊 著者:シドニー・フィンケルシュタイン 訳:酒井 泰介
出版社:日経BP出版センター 価格:\2,310(税込) 469P
本書は、米国ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのシドニー・ファンケルシュタイン教授による6年間の研究成果をまとめたものです。51社にわたる企業の失敗事例を詳細に調査し、仮説を構築し、当事者にインタビューを実施して仮説を検証するという、地道な作業を研究室を挙げて実施しました。
ビジネススクールで扱うケーススタディは、成功した企業の過程を分析することが多く、失敗事例からビジネスの教訓を学ぼう、というのは、非常に珍しいそうです。
21世紀に入ってエンロンやワールドコムといった急成長した大企業が相次いで破綻し、経営者の責任が問われています。経営者が巨額な役員報酬やストックオプションを手にするために不正をはたらいた事実は重く、この制度の欠陥が叫ばれはじめているそうですが、この研究を開始した1997年から数年間はアメリカの経済がピークを迎えつつあった時期でした。“ニューエコノミー”という言葉に踊ったITバブルが巻き起こり、消費者の市場よりも金融マーケットの方が実入りが大きい状態では、顧客サービスを地道に行なう姿勢が失われていきました。
そんな時期に、著者は時流にさからうかのように、あえて失敗企業の研究を発案しました。顧客の声を大切にしない経営者は失敗する、傲慢な経営者は失敗する、という仮説をたて、多数の事例を研究して検証していきました。
調査した失敗事例の中には日本の失敗例も4つありましたが、本書には2つ紹介されています。一つは、SONYがコロンビアピクチャーを買収したものの、大損失を出してしまったケース。二番目は、雪印乳業が食中毒事件、狂牛病発生時の詐欺事件を通じて顧客の信頼を失ったケースです。
研究成果を一般人にも公開するために書かれた本書は400ページ以上もあり、多くの経営者が失敗する実例やその原因・対策を読んでいると、だんだん、何が何だか分からなくなってきました。
そもそも、無名な企業や最初から無能な経営者は取り上げていませんので、少なくともここに出てくる会社・経営者は一時代を築いています。だからこそ失敗が際立って見えてくるのです。強引に要約すると、成功した企業・経営者は自分自身の成功に溺れて危機の兆候を見失うような社内の空気(ワンマン経営者だったり、上級幹部全体の風潮だったり)を作りだしてしまうようです。
経営者をチェックせよ、というのが本書の結論です。
会社の幹部でもない自分にそんなこと言われてもなぁ。……と思うような人は、読まない方がいいかも。
最後に、本書の予言が的中した個所を紹介します。本書には、大リーグのレッドソックスの失敗事例(黒人選手の入団を拒みつづけたおかげで弱小チームになったこと)が紹介されています。一度失敗した会社でも、間違いの原因を克服すれば再び興隆する可能性がある、と結論を出した後で、「レッドソックスだって、来年優勝しないとも限らないではないか」と結ばれています。
本書の予言(?)通り、この本が出版された翌年(2004年)にレッドソックスは優勝しました。マスコミは「バンビーノの呪いが解けた」と大騒ぎでしたが、本書の最後の言葉が“呪い”を解くきっかけになったのかもしれません。