捏造と盗作


副題:米ジャーナリズムに何を学ぶか
2004年10月刊  著者:高浜 賛  出版社:潮出版社  価格:\1,680(税込)  254P


捏造と盗作―米ジャーナリズムに何を学ぶか (潮ライブラリー)


昨年11月にトム・クルーズがプロデュースした『ニュースの天才』という映画が公開され、話題になりました。結局私は見ることができなかったのですが、主題である「ニュースの捏造」には興味がわきました。
本書は、アメリカのジャーナリズムに多発している捏造・盗作事件の内容を紹介し、その背景を解説したレポートです。


発行部数100万部は少ないものの、「アメリカの良識」「影響力のある新聞」で通っていた『ニューヨーク・タイムズ』に盗作事件が起こったのは2003年のことでした。
若手のホープジェイソン・ブレア記者が取材に行かずに、他社の新聞を流用して記事を作成していたのです。また、同じ『ニューヨーク・タイムズ』のベテランであるリック・ブラック記者にも盗作の疑惑が発生します。自費で雇ったアシスタントが書いた原稿を使って、自分が取材したように書いていました。
一方、アメリカで一番部数の多い『USAトゥディ』紙にも、2004年初頭に捏造・盗作疑惑が発覚。社歴21年の花形海外特派員ジャック・ケリー氏の書いた720本の記事を検証したところ、このうち、100本が捏造や事実に反する記事だったことがわかりました。


最近になって、どうしてこんなに沢山の捏造事件が発覚しているのでしょうか。以前にはなかったのでしょうか。
識者によれば、創生期のアメリカのジャーナリズム(19世紀)には捏造記事や盗作記事が沢山あったといいます。イエロージャーナリズムはその典型でしたが、1930年代、40年代になって新聞がニュース報道の主役になり出すとともに、記事を書くものや編集者たちにある種の規律のようなものができ、新聞作りも厳格になってきました。
それが、ここ20年くらい前から『カネ儲け精神』が米社会に蔓延し始めると、それが新聞記者にも浸透してきます。賞がほしい、有名になりたい、テレビにも出たい等、自己の栄達が目標になるに従って、地道に実直に『社会の木鐸』として新聞記者活動をやろうとする空気が薄れ、嘘は絶対に書かない、他の記者の書いた記事を盗んだりしない、といった規律が音を立てて崩れていったというのです。


本書では、このような背景を深堀すると共に、今は買収されて廃刊になったインターネットのゴシップ屋『ドゥルージ・リポート』の話、ケリー候補の不倫疑惑報道、知事選挙直前に出たシュワルツネッガーのセクハラ報道、イラク大量破壊兵器報道のウソなど、米メディアの現在の動きもレポートしています。


私が印象深かったのは、著者が映画『ニュースの天才』に寄せた感想です。
この本を脱稿する直前に、著者はこの映画の英語版(原題は『Shattered Glass(壊れたガラス)』)を観ました。「なかなかの秀作」という一般的な映画評を紹介したあとで著者は言います。「私は、やはり、嘘つきの書いた本は嫌だし、それを基にした映画は好きではない」と。ジャーナリストの一人として、ウソをついた本人を小説や映画の原作者として受け入れてしまう業界自体が許せないのでしょう。


ならば日本のジャーナリズムはどうなっているのでしょうか。
当然ながら本書には書かれていません。


残念!