2004年12月刊 著者:清水 義範 出版社:小学館 価格:\1,260(税込) 255P
本書は友人から託された手紙を「私」が解読する、という場面からスタートします。調べていくうちに、夏目漱石が書いた手紙らしい、しかも漱石が小説家としてデビューした『我輩は猫である』の執筆動機を述べた手紙で、ひょっとしたら大発見かもしれない、と続いていきます。
さらに、漱石から手紙をもらったのは若い女性で、「友人」の祖母の叔母さんにあたる人らしい、と「私」の調査で辿りつきます。しかも、どうもその女性は自殺して亡くなっており、自殺の原因がひょっとしたら漱石にあるのではないか……というところまでくると、背中に冷たいものが走りました。
それまでは『我輩は猫である』のようにユーモラスで朗らかな雰囲気で物語が進んでいたのですが、突然、謎解きミステリー小説に変わってしまいます。そこで明かされる自殺の原因とは何か、また漱石の心の闇とは何か! ……あとは読んでのお楽しみ。
漱石というと「胃弱」「いつもムスッとしていた」「癇癪持ち」というイメージがあります。しかし、あとがきで著者が「私がこの小説で書きたかったことは、漱石の上機嫌と自信だ」と言っている通り、上機嫌な漱石が登場します。また、「お金に細かい人」という側面にもスポットを当てています。
著者が清水義範ということでユーモラスな内容を予想していましたので、自殺の謎解きというシリアスな味付けには驚きましたが、漱石の実像に触れたような満足感が残り、得した気分です。
ところで、漱石といえばマンガ評論家の夏目房之介氏は漱石の「直系の孫」として知られています。彼は英国留学時の漱石の足跡を訪ねた「漱石の孫」を出版したり、最近のNHKテレビ番組で漱石の「文学論」の原稿を基に作家としての準備段階について分析したりしています。ひょっとすると清水氏もNHKの番組を見てヒントを得たのかもしれませんね。