代行返上


2004年3月刊  著者:幸田 真音  出版社:小学館  価格:\1,890(税込)  437P


代行返上


2003年は年金問題がマスコミでも選挙でも大きく取り上げられた年でした。将来の給付が減るとか負担額が増えるということが強調され、国への不満を高める論調が多かったように思いますが、設定していた金利を大きく下回る超低金利が続いている状態では何らかの対策を打たなければ破綻してしまいます。
超低金利による年金の積み立て不足は国だけの問題ではなく、企業の年金基金も同じように苦しくなっています。今までは国に代行して年金業務を行ない、国の基準プラスアルファの積み立てを行なうことによって企業に貢献してきたのですが、最近は逆に企業経営にマイナス要因を与えるようになってきました。それならば年金業務の代行を止めてしまえ、国に戻してしまえ、というのが代行返上です。
ところが、国に戻すには今まで企業の年金基金で運用していた株や債権をいったん現金化して国に納付する規則になっています。代行返上する企業が急に増えることによって大量の株式売却が増え、株価が暴落するのではないか、という懸念を小説にしたのが本書です。


ストーリーを進めながら、ややこしい年金問題を解説してくれるので、良い入門書として読むことができます。マンガ『日本経済入門』の年金小説バージョンというところでしょうか。
著者は米国系銀行や証券会社でディーラーをやっていた経歴があります。大量の売りが発生することによって市場が大きく変動する場面を実際に経験しているのでしょう。ディーラーが株の売買をする本書のクライマックスは臨場感満点です。


プロローグで登場した人物が、本編ではなかなか登場せず、伏線の先が知りたくなってずんずん読み進んでしまいます。400ページ以上ありますが、長さを感じさせずに最後までひっぱっていってくれる本でした。