本がなくても生きてはいける

2004年6月刊  著者:岸本 葉子  出版社:講談社文庫  価格:\520(税込)  258P


本がなくても生きてはいける (講談社文庫)


何かおもしろい本の話を見つけられればいいな〜、と手に取りました。本書は本の内容を主な話題にする「書評」ではなく、日常のできごとを書いてみたら自然に本が登場していた、というスタイルで、「読書エッセイ」という呼び方がしっくりするように思います。
身辺に起こったできごとと紹介する本の内容が無関係だと興ざめですが、本書はエッセイの文章から本の内容へ移る流れがスムーズで、読んでいて気持ちがいいです。


文筆業の著者にそんなにドラマチックなできごとは起こりませんから、実家に帰ってくつろいでいる中でこんな本を読んだ、というような平凡なエピソードもあります。でも、本書を読んで驚くのは、本人はともかく登場する友人・知人のエピソードが非凡なことです。
たとえば、知人の夫が四十を過ぎてから、急に「化石」を趣味としはじめたという話題。その入れ込み方がふつうでなく、ただの石のかけらに見えたものを捨てたら烈火のごとく怒られたとか、住宅ローンの月々の支払いの何倍もする化石発掘ツアーの案内に憑かれたように見入っている、というエピソードが紹介されます。知人が「この人、今に、会社を辞めて化石発掘に生きる、と言い出しかねない」と心配している様子がおかしくて、思わず笑ってしまいます。
こんな非凡な友人・知人を次から次に登場させるというのは、平凡な視点をもった観察者にはできないことです。きっと、いつも高感度アンテナを張っているのでしょう。


紹介されている本も、当時話題を呼んだ本ではなく、けっこう知られていない(マニアックな)本が多かったです。本書(文庫)の元になった単行本の発行は4年前ですが、全く古さを感じさせません。いい作家を見つけました。最近の本も探してみようと思います。