うまい!と言われる文章の技術


1994年4月刊  著者:轡田 隆史  出版社:三笠書房(知的生き方文庫)   \250(税込)  249P

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著者は朝日新聞夕刊の「素粒子」というコラムを1996年まで8年間執筆し、朝日カルチャースセンターなどで文章教室の講師も担当していた、という経歴を持っています。
コラム「素粒子」はその日の朝刊のニュース記事をベースにし、1項目当たりわずか3行で要約して批評を加えるという形をとっています。毎日5項目の短文、全部で210字を書き続けた著者は、文章作成に一家言を持つようになったのでしょう。文庫本書下ろしで本書を世に問いました。


本書では、いい文章を書くための種々の方法を解説しており、文章のきっかけはたった一つの「なぜ」でいい、他人の目で自分の文章を読む、書き出しにテーマのオウム返しをしない、「ニュース」のある文章を書け、等々の参考になりそうな内容が並んでいます。
私自身としても、ワープロと文章の関係を考察した第5章や、「です・ます」調と「である」調の使い分けを書いている第4章は為になりました。


でも、実は、私は「文章教室」「文章読本」にはウルサイ読者なんです。3年くらい前に斎藤美奈子著『文章読本さん江』を読んでこのジャンルに興味を覚えてからは、類書を見つけると手にとるようになりました。「文章を上達させたい」という実益半分、「今度の著者は何か新しい文章上達法を明かしてくれるのかな」という興味半分です。
ここ1年だけでも、山口文憲著『読ませる技術』、清水義範著『大人のための文章教室』(2004-11-24のブログ参照)斎藤孝著『原稿用紙10枚を書く力』(2004-12-13のブログ参照)三田誠広著『こころに効く小説の書き方』(2005-01-28のブログ参照)をチェックしています。
読み比べてみると、他の著者が独自の文章作成術を展開している中で、今回の轡田さんはどうも分が悪い。「私の失敗例」などと謙遜しているふりをしながら例文として自分の文章を引いているあたり、「臆面もない」という印象はぬぐえません。句読点についてもいろいろ書いていますが、最後は感覚的な問題に落ち着いています。同じ朝日新聞の先輩記者である本田勝一氏は、『日本語の作文技術』の中で、精密な分析を基に「こう書くべし」と明快に書いていましたよ。比較するのは酷かもしれませんが……。


ただ、著者自身も自分の著書を「文章作成の決定版」と思い上がっているわけではなく、最後の章「文章を書くすべての人に勧めたいこと」の中で、自分が良いと思った本を何冊も推薦しています。
著者が一番に薦めたのは、井上ひさし氏のエッセイ集8『死ぬのがこわくなる薬』の中の「現在のぞみ得る最上かつ最良の文章上達方とは」という文章の冒頭部分。ここで井上ひさし氏は「丸谷才一の『文章読本』を読め」と言っています。つまり、井上ひさし氏も轡田も一番心酔しているのは丸谷才一の『文章読本』ということです。
でも、井上ひさし氏も(たぶんこのエッセイよりも後になってから)『自家製文章読本』を著しました。文書のプロというのは、文章を書くことに自負がないとやっていけない人種なのですね。