オカマだけどOLやってます。


著者:能町 みね子  出版社:竹書房  2006年10月刊  \1,000(税込)  129P


オカマだけどOLやってます。    購入する際は、こちらから


著者の能町みね子さんの最新作『お家賃ですけど』を新聞の書籍広告でみかけた。


女性作家の書いたエッセイにはけっこう「当たり」が多い。


岸本葉子さんの『本がなくても生きてはいける』
は、「本」の話よりも友人・知人のエピソードが面白くて笑ってしまった。まだ岸本さんがガンを患う前で、デキゴトロジー的な作風にいっぺんにやられてしまった。(僕の書評はこちら


北大路公子さんの『生きていてもいいかしら日記』は、
昼間の回転寿司で楽しくビールを飲んでいたら、となりに座ったじいさんに説教された、とか、
トイレ掃除をしていて、うっかりボタンに触ってシャワートイレの水を頭からかぶってしまった、とか、
自堕落な生活と妄想癖が「芸」の領域に突入しているスグレモノだった。


今回も、聞いたことのない作家だけど、『お家賃ですけど』というタイトルと表紙写真
お家賃ですけど
を見て、また「当たり」という予感がした。


アマゾンの内容紹介には、

  「築40年超の下宿風アパートと、その大家さん、隣人、周りの人など、
   日常の中で出会った人々への著者の一方的な偏愛・執着を記録した
   日常エッセイ」

と書いてある。
短い紹介文なのに「日常」がダブるのはまずいんじゃないの、という突っこみはさておき、貧乏を笑い飛ばす内容にきっとハズレはない。


よし! と、今回は図書館に購入リクエストした(汗)
ついでに、著者の既刊本を予約したら、能町さんのデビュー作である本書が先に届いた。


けっこう売れたらしく、2009年にもう文庫本も出ている。


ということで、今日はまだ読んでいない『お家賃ですけど』作者のデビュー作を取りあげる。


「オカマだけどOLやってます」という何げないセリフは、著者が本当は男性なのに女性として生きていることを示している。


そう。
著者は、オフィシャルな言い方では「性同一性障害」という診断を受けている、元男性なのだ。


でも、能町さん、この呼びかたはキライ。
取りあつかい次第では深刻になってしまう事態を、「あっ、ちょっと人と違ってるだけです」という軽さで語るために、本書では「オカマ」と自称することにした。


さて能町さん、大学を卒業して新卒男性社員として就職したんだけど、どうもネクタイをして仕事を続けることができなくなって、退職してしまった。
いろいろあって、女として生きていくことを決意し、まずウェイトレスのアルバイトなどで周りが女として見てくれる訓練を重ねる。


数年前の某月某日、某社の面接にみごと合格して、はれてオーエル生活をすることになった。


なんと、同じ課の人はほとんど女性。
少ない男性社員が外回りに出てしまうと、オフィスは女だけになってしまう。


能町さん、ドキドキしながら次のように言っている。

  ウェイトレスもだいぶオンナ上級編だったけど、
  ここも相当レベル高いよ。やべー。
  オンナの園におどおど踏み込んでゆく私(こっそりチン子持ち)。


しかし、しか〜し、意外にもバレない。
声の出し方とか、メイクのしかたとか、工夫を重ねたことが実ったのだ。


そんなドキドキのオーエル生活を能町さんは、深刻ぶらずに教えてくれる。


「オトコ時代編」では、男の子として生きてきた半生をふり返りつつ、女として生きていく決意をするまでの心境の変化も書いている。


おすぎとピーコ以来、テレビでオカマ芸人を見ることは珍しくなくなったが、僕の周りにはニューハーフもオカマもいない。
最近は、はるな愛のようにニューハーフの美人コンテスト「ミスインターナショナルクイーン」になるような美人も出てきているが、まだ一般人が平気でカミングアウトできる風潮はないようだ。


でも、そんなに特殊な人間ではないんだよ。
ふつう、ふつう、と語っているのが本書だ。


自分で書いたイラストも、脱力系でいい味出している。


「かわいそう」とか「気持ち悪い」なんて言わないで、なるべく軽い好奇心で手にして、「へ〜、そうなんだ」と読むことをお勧めする。