30歳からの人生リセット術


副題:悔いなく生きるために
著者:久恒 啓一  出版社:創元社  2010年7月刊  \1,470(税込)  227P


30歳からの人生リセット術 (創元社ビジネス)    購入する際は、こちらから


久恒氏は、1950年大分県中津市生まれ。
大学卒業後、日本航空に入社して会社員生活を送っていたのだが、30歳になって「何者でもない自分」に気づき、ショックを受けた。


九州大学法学部を卒業し、「多少なりとも人より秀でたところがあると自負していた」久恒氏は、仕事がロクにできない、恋愛も失敗ばかりしている自分が無力に思えてしかたなかった。
思いかえしてみれば、仕事に精を出しながらも「こんなはずじゃない」、「オレはもってできるはずだ」ともがいていた20代は、錯覚と幻想の年月だった――と、久恒氏は反省する。


今ふうに言えば「自分探し」に失敗した久恒氏は、「自分探し」はやめて「自分づくり」をすることにした。


自分が今している仕事、自分が今いる現場を掘り下げ、社内だけでなく社会全体に通用する仕事をしていく。自分の生き方をリセットするような感覚は、その後の社内での活躍、大学教授への転身、ベストセラー作家としての成功につながっていく。


30歳の久恒氏が自分の生き方を見つめ直したように、あなたも仕事や人生に向かう姿勢を見つめ直してはどうだろうか、と問いかけるのが本書の主題である。


久恒氏がアドバイスする内容は、次のように多岐に及んでいる。

  • Chapter 01 世代
  • Chapter 02 個の世界
  • Chapter 03 立ち位置
  • Chapter 04 決断と行動
  • Chapter 05 情熱
  • Chapter 06 出会い
  • Chapter 07 変化
  • Chapter 08 時間管理
  • Chapter 09 成長
  • Chapter 10 お金
  • Chapter 11 健康
  • Chapter 12 関係
  • Chapter 13 交流
  • Chapter 14 生き方


それぞれ、人生をリセットするほど自分の生き方を考えてみる時には必須の項目である。


詳しくは本書をお読みいただくとして、はじめの2つのChapterの内容を簡単に紹介させていただく。


まず、Chapter 01の「世代」。
今の30代は団塊ジュニア世代で、就職氷河期失われた10年に大変な思いをした世代であるが、悲観しないで、むしろインターネットを自然に駆使できる世代と前向きにとらえてもらいたい、と久恒氏はエールを送る。


また、いつまで生きられるかを考えたとき、人生50年時代の昔の人生サイクルと、今の人生80年時代の人生サイクルでは年代感覚が違う、という発想の転換を提案している。


「吾れ十有五にして学に志す、三十にして立つ、……」という孔子論語の一文を現代の長寿社会に適用するなら、年齢を1.6倍して考えるといい。孔子が学問の道を志した15歳は、今だと24歳だし、孔子が学問の基礎を築いた30歳は、今なら48歳、と久恒氏は換算する。
現代の30代は、孔子の「三十にして立つ」を目指す青年中期だ。まだまだ取り返しがきく世代なのだ、と久恒氏は30代の若者にエールを送る。


そういえば、僕は30代後半のころ、「浅沼@16進で20代です」とメールの冒頭に書いていた。


10進数の「32」は、計算機屋がよく使う16進数の「20」になる。以下、「33」は「21」、「34」は「22」、……。
もう僕は16進で30代になってしまったが、10進数「50代」でも「30代」という意識を持ってみようかと思う。


つづいて、Chapter 02の「個の世界」。


現代に生きる私たちの人生は、公・私・個の3つに分けることができる、というのが久恒氏の持論だ。


会社員・ビジネスマンとしての「公」、公を離れた生活や家庭人としての「私」、そしてもうひとつ、趣味や勉強やライフワークに向かう個人としての「個」。
人生も後半に差しかかり、定年を迎え、子育てを終えると、この3つのうち、「公」と「私」が大きく後退してしまう。そのことに慌てないように、今のうちから「個」を豊かにしていこう。


具体的には、一日の仕事の帰り、家に帰る前に自分の時間を持つ、土日を充実させるために、金曜日には飲みに誘われても応じない、好きなことに打ちこむ、等々。


自分自身が「知的生産の技術研究会」に参加して人生が変わった経験や、宮脇俊三氏が鉄道趣味をとうとう本業にしてしまった話など、個の充実をはかった実例をあげている。


本書から外れるが、4年前に出版した『通勤電車で寝てはいけない!』の中で、子育ては親として当然の義務であると認めながらも、久恒氏は自分の生活リズムを守ることにした経験を語っていた。


子どもが夜中に泣いていても、起きないと決めたというのだ。


「子どもにかまけてもいいが、睡眠不足で体を壊したり、仕事に支障が出たら元も子もない」と言い切っていたのは、育児をする男性がイクメンともてはやされる現在なら、「子育てをしないことを自慢するのはおかしい」と非難されるかもしれない。


戦後5年後の昭和25年生まれの日垣氏が胸をはって主張できることでも、この部分だけは僕は受け入れられない。
「個」も「私」も欲張ったほうがいい、と読むときにちょっとアレンジして読解することをお勧めする。


このほか、時間管理術やお金の使い方・貯め方など、トータルに人生を考える時に考慮しておくべきことが、ひととおり網羅されている。


久恒氏は2002年に出した『図で考える人は仕事ができる』がベストセラーになり、久恒さんといえば「図解」、「図解」といえば久恒さん、と言われるようになった図解の大家である。(『図で考える人は仕事ができる』文庫本はこちら


僕がお客様向け技術セミナーを実施する部門にいた2003年当時、久恒氏の図解セミナーを企画したことがある。


たまたま久恒氏と仕事をしている人と知りあい、コンタクトを試みたのだが、ベストセラー作家は多忙だったし、当時は宮城大学教授をしていて東京へ来たときには予定が詰まっている様子で、会うことも、講師依頼することもできなかった。


その後、僕がセミナー実施部署をはなれたあと、やっと久恒氏と初対面をはたし、その後も何度かセミナーや勉強会で顔をあわせた時は声をかけていただくようになった。


単にベストセラー作家の新刊として紹介するだけでなく、知人の本としてお勧めできるのが、ちょっと嬉しい。