学生時代に土居健郎著『「甘え」の構造』を読んだ。
「甘え」という心理状態を通して、日本人の気質を考察する文化論だった。
この本を読んで、日本文化を理解することは自分を理解することに通じる、ということに気づき、やはりベストセラーだった小此木啓吾著『モラトリアム人間の時代』や岸田秀著『ものぐさ精神分析』にも手を伸ばした。
なんとなく分かったような気もしたが、だからといって何か人生観が変わったり、行動が変化するようなことはなかった。
その後、類書から遠ざかっていたのだが、久しぶりに日本人の気質を論じる本に出会ったので紹介させていただく。
まず1冊目。
書名:「しがらみ」を科学する
副題:高校生からの社会心理学入門
著者:山岸 俊男 出版社:筑摩書房(ちくまプリマー新書) 2011年11月刊 \819(税込) 188P
中学生、高校生を対象読者とする「ちくまプリマー新書」シリーズだ。
中学生、高校生向けとはいっても、ちくまプリマー新書には、松岡正剛著『多読術』のように歯ごたえのある本もあったりするから、油断はできない。
本書は、いかにも中学生、高校生に向けたやさしい言葉づかいをしているが、内容は決してやさしくない。大人向けの本と言って良い。
本書で印象的だったのは、社会を理解するためには全体の構造に目を向けるべきで、心理現象で説明してはいけない――「心でっかち」な考え方から抜け出そう、という著者の主張だ。
たとえば、1980年代に離婚率が減ったという統計的事実がある。その原因を推理しようとすると、
戦後の民主主義教育を受けた世代の夫婦平等が定着したから、
とか、
女性が経済的に自立して、いやいや結婚する人が減った、
とか、
経済的に余裕が出てきたので家庭内の不和が減った、
等の理由が頭に浮かぶかもしれないが、すべて間違い、だという。
著者の山岸氏の説明では、この時期に団塊世代が最も離婚しやすい年代(30代前半)から、離婚しにくい年代(30代後半)に移行した。団塊世代は人数が多いので、団塊世代が最も離婚しやすい時期は日本全体の離婚率を引き上げ、離婚しにくい年代(30代後半)に移行すると日本全体の離婚率を引き下げる効果があった。
それを、何かしらの心理状態で説明しようとすると間違う。「心でっかち」な説明や理解は止めましょう、というのが著者の主張だ。
山岸氏は、「しがらみ」という心理現象までも社会分析のキーワードにしてしまう。
「しがらみ」の観点から日本社会を分析してみると、「社会」というものは「世間」に他ならない。その「世間」は、あらかじめ望ましい行動にアメが用意され、望ましくない行動にはムチが用意されたインセンティブ構造をしている。
構造(しくみ)によって一人ひとりの行動が促されるのが社会だから、何かの事件や社会現象も、個人の意思や思いが発端になっているように見えて、実は社会のしくみが原因であることが多い。
社会に出るのが不安な若い人たちも、こういう社会構造が分かれば、きっと不安が減って、社会に適合していけるに違いない。
そのために山岸氏は本書を書いた、と言っている。
2冊目はこちら。