副題:1万人の失敗談からわかった人生の法則
著者:大塚 寿 出版社:ダイヤモンド社 2011年2月刊 \1,500(税込) 246P
もう35年も前のことだが、僕にはひとつ、大きな後悔がある。
大学に入学し、あこがれのキャンパスライフを送りはじめたころ、僕は履修した授業すべてにきちんと出席していた。
一方で、授業がはじまる前に教室に集合し、代返する当番を残して出て行くグループもいた。キャンパスのすぐ外にある雀荘へ行って、ひとしきりジャラジャラと牌をかき回すのだ。
うらやましいとも思ったが、授業に出ないで単位を取る自信もなく、僕は生真面目に出席しつづけた。
1年半たち、教養課程が終わって学部生になった。
高校時代からマジメに授業に出続けた僕は、もういいかげんに勉強することに疲れてしまい、ポツポツと授業をサボるようになった。単位を落とすことはなかったが、期限の決まっていないレポートは、卒業までに出せば良いのだろうと思い、いつも後回しにしていた。
僕は知らなかった。レポート期限のない課目は、レポートを提出するまでは成績を付けてもらえない。だから、就活時の成績は「不可」と同じ評価になってしまうことを。
一方で、入学したころ雀荘に入りびたっていたメンバーは、学部生になってからは授業にきちんと出るようになり、レポートも欠かさず提出していた。
彼らは知っていたのだ。
教養課程のどの先生がホトケで、授業に出なくても「優」をくれるかを。もうひとつ、期限の決まっていないレポートに、どんな落とし穴が待っているかを。
そんなこと、僕は知らなかった。
むしろ、どの先生がホトケでどの先生がオニかを先輩に教えてもらうのは不純だと思っていたのだ。
雀荘に入り浸っていたメンバーは羽を休めた鳥のように、学部生になって大きく羽ばたいていった。
学生生活のメリハリを逆にしてしまったことに気づいた僕は、深く後悔した。
しまった!
もっと先輩の貴重な教えに耳を傾けておけば良かった……。
今日の一冊は、ビジネスマンがそんな後悔をしないようにアドバイスする一冊だ。
著者の大塚氏は、仕事で接した1万人を超える人から話を聞くうちに、成功話より失敗談のほうが格段におもしろいことに気づいた。特に、リタイヤ組の人たちの失敗や後悔が40代に集中していることを発見し、あとで後悔しないような生き方をするための50のリストを作った。
40代が大切であることを大塚氏が気づいたのは、ある50代の女性経営者から次のような話を聞いたときだ。
彼女は同窓会に出席したばかりだったのだが、20代、30代のころに会を仕切っていた一流企業入社組がすっかりしぼんでいた、と教えてくれた。50代になってあまり出世できなかったらしく、意気消沈してしまったように見えるという。
代わりにイキイキとして会を仕切って輝いていたのは、20代、30代のころは「この人大丈夫かしら」と心配してしまうような人だった。彼らは40代で花を咲かせ、楽しい50代を過ごしているらしい。
50代がサラリーマン人生の総仕上げの時期ならば、40代が大切だ、と大塚氏が実感したエピソードである。
僕の学生時代の経験とも共通するかもしれないが、いつまでも前と同じやり方をしていてはいけない場合がある。
大塚氏に言わせれば、40代は、30代の延長ではない。走る方向が180度変わる「人生のターニングポイント」なのだ。職場では責任が重くなるし、プレイヤーからプレイングマネジャーへと求められる能力も変わる。家庭でも子どもの教育に力を入れたり、親の介護がのしかかってきたりする年齢だ。
がむしゃらに仕事に向かっていけば良かった30代と違い、職場での人間関係も、仕事と家庭のバランスも、よく考えて行動しなければならない。
たとえば、11番目のリストは、次のような内容である。
会社が自分に「何を求めているのか」をもっと意識すればよかった
自分の強み、弱みを意識することは当然として、会社が求めているのは何なのかを察知する必要がある。
プレイングマネジャーとして一生懸命業績を上げたとしても、会社がメンバーの育成に力を入れていた場合は、高い評価は得られない。
大塚氏は極端な実例として、降格人事を食らったS氏の話を紹介している。
S氏の直属の上司である取締役は、次々と思いつきで指示を出す人で、彼が課長を務める企画課員は、しょっちゅう振り回されていた。現場の混乱をなんとか収拾しようと、S氏は取締役の指示にフィルターをかけ、S氏が優先順位が低いと判断した仕事を止めた。
おかげで現場の混乱は少なくなったが、突然S氏は課長代理に降格されて他の部署へ異動させられてしまう。
上司の取締役が企画課長に期待していたのは、整然とマネジメントすることではなかった。面白いこと、想像力に満ちたアイデアをつくり出すことを求められていたことにS氏が気づいたときは遅かった。
このほか、大塚氏のリストには、
もっと「家族との時間」に気を遣えばよかった
「付きあいのいい人」である必要などなかった
わかっていても結局「守り」に入ってしまった
など、過ぎてしまってから後悔しそうなつぶやきがたくさん載っている。
40代まっさかりの人も、これから40代に向かう人も、ついでに、僕のように40代を過ぎてしまった人も、油断して人生を過ごしてしまわないために、手にとってみることをお勧めする。
最後に、冒頭に書いた僕の「後悔」がどうなったか、ちょっとだけ後日談を。
就活を前に、しまった! と気づいた僕は、起死回生の賭けに出た。就職しないで大学院へ行こう! と決めたのだ。
大学院へ行こう! と決めるのは簡単でも、4年ぶりの受験勉強がどれほどシンドイかは、あとで思い知ることになるのだが……。