副題:実践と思考のシナジーを生み出す「1R2E3S」
著者:飯塚 哲哉 出版社:祥伝社 2008年5月刊 \1,470(税込) 241P
ベンチャー企業の社長が書いた仕事の仕方を指南した本、というと、ありふれたビジネス本に聞こえます。
でも、アマゾンでこの本の表紙アップをちょっと覗いてみてください。
帯に載っている著者の笑顔、素敵だと思いませんか。
60歳を過ぎてこんな充実した笑顔を見せられる人は、本書の題名のように「いい仕事、いい人生」を生きてきたに違いありません。
実際に読んでみると、私の予想は当たっていました。
本書は、充実した人生を送ってきたと自負する著者が、人は何のために生きるのか、何のためにはたらくのか、という大きな問いからスタートし、大企業からベンチャーに転身し、熾烈な競争を生き残ってきた自身の経験をふり返り、著者自身が到達したひとつの答えを提示してくれる本です。
すぐに役立つノウハウは多くありませんが、読んでいるうちに、仕事に取り組む姿勢を正してくれる気がしてきます。
ジワジワっと効いてくる漢方薬のような一書といえるでしょう。
「はじめに」で早くも明かされている通り、著者の飯塚さんは金銭を第一とする考えかたに、大きな「否」をつきつけています。「拝金ベンチャーの末路」「世界を見渡せば拝金主義の挫折」等と強い口調で最近の風潮を批判しているのです。
お金第一でなければ、何を大切にすればよいのでしょう。
飯塚さんの答えは、「充実した人生を送ること」。そのためにも、充実した仕事をすべき、というところから本書ははじまります。
「充実した」というと抽象的に聞こえてしまいますが、飯塚さんの定義は簡単で、退屈で長く感じるのが「充実していない」とき、逆に夢中になって一瞬で過ぎ去ったように感じるのが「充実しているとき」です。
多くの人は、「人生は長ければ長いほど良い」と考えています。しかし、厭なこと、つらいことを我慢してばかりの人生は充実度が低いと言わざるをえません。
「収入が多ければ多いほど良い」という考え方と同じように、単に量だけを突き詰めても幸せとはほど遠くなってしまうのです。
飯塚さんは「ただ長いだけの人生に大した価値はない」とまで言い切りました。
この後も、激しいことばが続きます。
仕事の報酬額だけしか考えない人にとって、「時給」は高ければ高いほうがいいに決まっています。
そういう人を飯塚さんは、
彼らは「自分の時間」を売ることで収入を得ている
と分析しました。
「能力」と「成果」を売っている自分とは別の生き方だというのです。
給料を時給換算する人は、残業手当を得るために長時間労働したりします。しかし、給料や報酬よりも、まず仕事の質を上げようとしている人は、限られた時間を自分の仕事のために注ぎ込もうとします。
こういう、「いい仕事」をめざす人は、
時間は「売る」ものではなく「使う」ものだ
と考えているのです。
同じサラリーマンでも、はたらく姿勢が180度違えば、人生の充実度も仕事の成果も大きく変わってきます。
人生の豊かさを1桁も2桁も増やすことができる、という飯塚さんの教えは、人を深く納得させる力がありました。
このあとも、「金で来た者は金で去る」、「信頼できるのは「ノー」と答えられる人」などの人材観を語り、会社経営の経験から抽出したマネジメントの勘どころを指南し、はては日本の社会風土への提言まで、飯塚さんの考えが開陳されます。
詳しい内容は本書をお読みいただくとして、本書の副題にある「1R2E3S」を簡単に解説しておきましょう。
これは、
1人(1 Resource)が2つの仕事を同時に実行しながら(2 Excutions)、
次の仕事のテーマを3つ考える(3 Studies)
を意味することばで、飯塚さんの造語です。
一人の人が一つのことだけに専念しないことによって、地に足に着いた発想力が得られる。と飯塚さんは、強調しています。
私なりに要約すると、次のようになりました。
身ひとつで、行動ふたつ、みっつ先読み
飯塚さん。いかがでしょうか?