もう一度会いたい


副題:思い出の人、さがします
著者:佐藤 あつ子  出版社:草思社  2007年7月刊  \1,575(税込)  253P


もう一度会いたい―思い出の人、さがします    購入する際は、こちらから


著者の佐藤さんは、勤め人時代に信用調査会社に勤務していました。


「暗い、怖い、高い」というイメージがつきものの調査業ですが、佐藤さんは調査する側される側、双方に喜んでもらえるような仕事をしたいと考え続け、「思い出の人を探す」という業務を中心とする調査会社を設立します。
つけた名前は「初恋の人探します社」。


もしろん、依頼を受ければ通常の調査会社のように浮気調査もこなします。しかし、人と人との出会いをたいせつにする佐藤さんの元には、何十年も前に生き別れた母をさがして欲しい、一度も会ったことのない妹をさがして欲しいという依頼が舞い込み、佐藤さんは費用と相談しながら、可能な限り希望に沿えるように全社をあげてがんばります。


本書で佐藤さんは、いままで受けた数々の人探しの依頼の内容と結末を語り、会社のやりくりの工夫、肉親の死などの身辺のできごとをちりばめ、法科大学院を受験する決意の理由を明かしています。
個々の依頼内容が一見バラバラに並べられていますが、必ず会社や家族のできごとに戻ることによって、不思議な落ち着きを感じます。組曲展覧会の絵」のプロムナードといった趣向です。


本書に登場する依頼人に、不思議と悪い人はいません。
多くは、相手が「元気でいるか」「幸せに暮らしているか」を確かめたいと願っているだけです。何十年ぶりかに再会して、再び恋心に火がついたりしないのか気になるところですが、佐藤さんは「ありえない」と断言します。
そうは言っても、男女の愛情・愛憎はきれい事ではすまない部分がある、と私は考えています。思いつめて、あいつを殺して自分も死のう、と思う人がいますし、お互いに結婚までのお遊びで、と「大人のつきあい」を演じたはずが、別れ話の愁嘆場が殺人の舞台となってしまう。松本清張に出てきそうなストーリーを想像してしまう私です。
しかし、本書にはこういう陰惨な事件は登場しませんでした。


事件のなりゆきをたどりながら、著者は仕事を通じて得た教訓を格言のような言い方で表現しています。
たとえば、普通の会社では、「会社に私生活を持ち込むな」とよく言われますが、佐藤さんは「私生活に仕事は持ち込むな、仕事に私生活を持ち込め」と言います。こういう特殊な仕事に従事しているからこそ、私生活で経験する人間同士の感情の軋轢や痛みから学び、依頼人への共感や想像力につなげるべきなのです。


佐藤さんは「人材は育てるのではない、選ぶのだ」と公言する風潮に、
   わたしは決してそうは思わない
と異議を唱えます。
人を「勝ち組/負け組」に選別して切り捨てることも大嫌いな著者です。自分の会社の新入社員にも、亀のような歩みでいいから少しずつで成長するようエールを送っていました。


著者の文章力・構成力は、まだ著書が2冊目というのが信じられないくらい完成しています。テレビドラマの原作と言われても納得する内容でした。
主人公を演じる女優をだれにするか。配役を想像しながら読むのも面白いかもしれませんよ。