仕事ストレスで伸びる人の心理学


副題:争わず、逃避せず、真正面から立ち向かう
著者:サルバトール・R.マッディ デボラ M.コシャバ【著】 山崎康司【訳】
出版社:ダイヤモンド社  2006年3月刊  \1,890(税込)  249P


仕事ストレスで伸びる人の心理学


「ストレス」といえば、良くないもの、避けたいもの、と相場が決まっていて、ストレスマネジメントは、「どうやってストレスを減らすか」「どうやってストレスをやわらげるか」という考え方が基本になっています。
本書では、その考え方を一歩こえて、ストレスに正面から向き合うことを主眼に置いた対処法を提案しています。


社会学者だった著者のマッディは、
「ストレスに満ちた環境にもかかわらず、成功を収める人がいるのはなぜか」
という研究テーマをかかげました。
マッディの研究チームは長期にわたる研究の結果、ストレスを成長の糧とする人に共通の“姿勢(Attitudes)”や“技術(Skills)”の特定パターンを発見し、「ハーディネス(頑健さ)」と名づけました。


この「ハーディネス(頑健さ)」理論を検証するため、マッディたちは、更に長期間にわたる実地調査をおこないます。
研究に協力してくれたイリノイ・ベル電話会社は、通信業界の規制緩和の影響で、経営環境が大きく変わろうとしていました。なるべく変化が多く混乱に満ちた職場、ストレスにさらされているの人の多い会社、という条件にぴったりです。
本書には、多くの研究対象の中から、ストレスにうまく適応できた人、うまく適応できなかった人が実例として登場し、ストレスの対応方法を個別に紹介してくれます。


ストレスにうまく適応できなかった人の生活は悲惨です。


酒におぼれ、家族に暴力をふるい、職場でますます敬遠され、中には会社を解雇されて配偶者からも離別(離婚)されてしまい、追跡調査できなくなるような人もいます。
マッディたちは、単にストレス状況を観察するだけでなく、ハーディネス理論に基づいたカウンセリングやコーチングも実施しました。


最初はストレスから逃げていた人も、研究チームのアドバイスを得て、やがてストレスの原因や自分の行動を見つめなおすようになります。さらに、自分がどのように行動すれば現状を変革できるかを考え、実際に一歩踏みだすところまでくれば、解決まであと少し。


自己変革を成しとげた人々が語る成功の物語は、読んでいて気持ちいいです。学術的な香りのする本書を退屈せずに読み進められるのも、この体験談のおかげでしょう。


その魔法のようなハーディネス理論の概要を簡単に紹介しましょう。

ハーディネス(頑健さ)のある人は、ストレス下での生き残りや成功を導いてくれる3つの「C」習慣がある。
3つの「C」とは、
  (1)コミットメント(関わり合い)
    たとえ困難な状況になろうとも、一人その場を離れるのではなく、
    その場にとどまり周囲の人々や出来事と関わりを持ち続けること。
  (2)コントロール(制御)
    今の状況を何も変えることはできないとあきらめるのではなく、
    自分が関わっている状況に影響を与え続けようとすること
  (3)チャレンジ(挑戦)
    自分の運命を嘆くのではなく、ストレス状況の中に成長の道を
    見出そうと努力し続けること


ならべてみると、「ふーん」という簡単なものです。
でも、みずから実践するとなると、どうでしょうか。


やはり心の底から納得しなければ実践まではおぼつきません。
そのためにも、本書の理論や体験談の熟読が有効でしょう。


現代社会は変化の多い社会であり、ストレスを避けることは不可能である。ならば、立ち向かっていこう、というのが本書の出発点です。
しかし、人間関係のストレスのように、変化の多い職場でも、変化の少ない職場でも発生するストレスもあります。
「苦手なあの人とあと○年も同じ職場かぁ」などと慢性的なストレスに悩まされている人も、本書に示すようなハーディネス手法は有効かもしれません。


本書をじっくり読んで、ためしてみてはいかがでしょうか。