著者:中島 岳志 出版社:毎日新聞社 2009年10月刊 \1,890(税込) 365P
「知るを楽しむ 私のこだわり人物伝」というNHK教育テレビの番組で、2008年にインド独立の父ガンジーを4回シリーズで取り上げた。このときの案内人が中島岳志氏だ。
ガンジーのことを「ガンディー」と発音することに違和感を感じたが、理知的でさわやかな青年、という印象が残った。
その中島氏が毎月一人、毎日新聞の夕刊紙上で連載対談を行った。合計29人との対談のすべてをテーマ別に並べ直したのが本書である。
中島氏は1975年生まれで、大阪外国語大学を卒業後、京都大学大学院のアジア・アフリカ地域研究研究科博士課程を修了。本書のタイトルに現れているとおり、いまはアジア地域を専門にしているようだ。(「地域研究研究科」と「研究」がダブッているのは僕のタイプミスではない。念のため)
対談相手の名前を見てみると、いとうせいこう氏のように、一見やわらかそうな対談相手も交ざっているが、西部邁氏、姜尚中氏、山口二郎氏のように、政治的発言で知られる“論客”が多い。
右翼も左翼もとり混ぜて、よくもまあ、こんな雑多の人々と共通の話題を見つけて盛り上がれるものだ。
姜尚中氏との対談を振り返って、中島氏は次のように書いた。
「スマートでダンディー」――。そう姜さんは世間で理解されている。理性的でシャープな語り口は、姜さんの通俗的なイメージを増幅して、女性ファンが熱い視線を送る。
しかし、私の中の「姜尚中」は、そんな人ではない。彼の心に渦巻く溶岩のような情念は、時に切れ味悪く、そこから抽出される文章は修辞的である。言葉は易しく美しいが、結論はなかなか判然としない。
テレビでガンジーの評伝を見てから約1年後にこの対談集を手にすることになったのだが、中島氏もまた、ただのさわやかな青年ではない。
「私のものの考え方は、西部邁という思想家に規定されているといっても過言ではない」と保守派であることを隠そうともしないし、それでいて、左翼と目されている森達也氏と意気投合もする。
「現在の私は親鸞思想を人生の指針としている」と公言するかと思えば、
タモリ倶楽部的な「ゆるさ」と松本的な「悲しみ」。この両者のジモト的な想像力が、私には魅力的に感じる。
なんて、真正面からお笑いを論じたりもする。
引き出しが多いことは分ったが、残念ながら僕のココロに刺さる言葉を見つけられなかった。
これからもいろいろな場面で見かけることが多くなりそうに思うので、注目していきたい。