副題:本当に残酷なマネー版グリム童話
著者:マネー・ヘッタ・チャン 出版社:経済界 2009年12月刊 \1,050(税込) 151P
本のタイトルだけの優劣を競う「日本タイトルだけ大賞2009」が昨年12月に開催された。
呼びかけ人の一人「さおだけ屋」著者の山田真哉さんのツイッターでこの賞のことを知り、バカバカしくて笑ってしまったのだが、200冊以上のユニークな題名の本をさしおき、みごと大賞に輝いたのがこの本。『ヘッテルとフエーテル』だ。
たしかに、興味を引くタイトルだ。
でも「タイトルだけ」大賞なのだから、内容はイマイチかもしれない。実際に読んでみてハズレだったら悔しいだろうなぁ、と思い、本屋さんで買うのはやめにした。
図書館に申しこんで、待つこと3ヶ月。やっと順番がまわってきて手にすることができた。
けっこうアタリだったので、紹介させていただく。
マネー・ヘッタ・チャンという著者名を見ると、中国系の外国人のように思ってしまうが、プロフィールに「ビジネスサブカルチャー作家」と書いてあるので、本当は日本人らしい。
本業は5年間負けなしのプロ投資家だそうで、平均20%の成績というから、的確に相場を読んでいるのだろう。
一方で、マネーが減った人たちのエピソードを耳にすることも多く、数あるネタの中から、厳選した8つの物語が本書に収められている。
副題に「本当に残酷なマネー版グリム童話」とある通り、なにかと残酷な話も多いグリム童話を題材に、お金を減らしてしまう主人公たちを滑稽に描いていく。
昔話は「むかしむかしあるところに……」と始まるものだが、マネー版グリム童話は、「むかしあって、これからもおこるおはなし」ではじまる。
主人公はヘッテルとフエーテルという兄妹。
ヘッテルは不安なことが大嫌いで、いつも生活の不安を減らそうと
考えていました。
一方、フエーテルは、お金が大好きでいつもお金を稼ぐことばかりを
考えていました。
2人は事件に巻きこまれ、気がつくとひどい目にあったりお金を巻き上げられたり。
最後は、次の言葉で締めくくられる。
今日もだれかがヘッテルとフエーテル、因果の歴史がまた1ページ……
一話くらい内容紹介しようと思ったが、たった8話しかないのでネタバラシは自粛し、目次を引用しておこう。
第1話 ヘッテルとフエーテル
第2話 カネヘルンの笛吹き
第3話 ピノキオ銀行
第4話 アホスギンちゃん
第5話 ヤンデレラ
第6話 ヘッテルと7人のODA・NPO
第7話 王様の金はロバの金
第8話 裸のフエーテル様
物語のネタバラシはしないが、著者マネー・ヘッタ・チャンの強烈なパロディ精神の一端は紹介しておきたい。
その1。
「カネヘルンの笛吹き」に登場する「ヘッテル」というOLのお話。
ある日ヘッテルは、とある流行本を読んで俄然やる気になりました。
その本は、カネヘルン・ミセス・インディという、女手ひとりで子供
を育てながら、転職&キャリアアップで年収は10倍、給料を何千万円も
もらい、何冊も本を書く肉食獣のような生活をしている女性が書いた本
でした。
彼女は言います。
断る力を持って、自分の人生を進めば、
起きていることはすべて正しい
ミセス・インディを信じ、書いてある通りに実行したヘッテルだったが、
それからというもの、ヘッテルの残りの人生は孤独な歩みでした。
(中略)
ヘッテルは、どこで間違ってしまったのかと自分を哀れんだのですが、
あとの祭りでしたとさ。
いいのかなぁ〜。こんなこと書いちゃって。
熱烈な○○ファンが黙っちゃいないぞ!
その2。
「アホスギンちゃん」に登場する、社会や物事にシニカルな目を向ける若者の言葉。
「なんでこの国は、起訴されたら99.9%有罪なんや、そら冤罪もでるわいな。
アホすぎるんちゃうん?」「30歳からの自分探しとか婚活とか気持ち悪いわ、アホすぎるんちゃうん?」
「おまえ、国と会社にだまされたのに、何も文句を言わないなんて
アホすぎるんちゃうん?」
いやいや、なかなか政治風刺、社会風刺が効いている。
こんなパロディ本なのに、巻末には参考文献がずら〜っと載っていて、数えてみたら28冊もならんでいた。
僕も以前、『グリム童話の世界』や、『グリム童話 メルヘンの深層』を書評したことがあるが、著者のマネー・ヘッタ・チャンは、実はグリム童話よりイソップ童話を参考にしたらしく、
『イソップ寓話の経済倫理学』竹内康雄(PHP研究所)
『金融イソップ物語』ジョン・トレイン(日本経済新聞社)
を挙げている。
最近の社会情勢についても目配りしており、
『経済は感情で動く』マッテオ・モッテルリーニ(紀伊國屋書店)
『まぐれ』ナシーム・ニコラス・タレブ(ダイヤモンド社)
『3年で辞めた若者はどこへ行ったか』城繁幸(筑摩書房)
『ワーキングプア』門倉貴史(宝島社)
等を参考にしたようだ。
ただし、この本のテイストに最も近い『ナニワ金融道』や『笑ゥせぇるすまん』は入っていない。
本当は、先頭に挙げるべきなんちゃうん?