著者:外山 滋比古 出版社:ちくま学芸文庫 2008年10月刊 \588(税込) 208P
いつも新刊ばかり追いかけていると、ふと、
「こんなにたくさん読んで、何になるんだろう」
と疑問に思うことがあります。
こんなとき思い出されるのがショウペンハウエルの『読書について』に登場する次のような耳の痛い指摘の数々。
いわく、
「多読に費やす勤勉な人間は、しだいに自分でものを考える力を
失って行く」
「多読するほど、読まれたものは精神の中に、真の跡をとどめない」
「反復は研究の母なり。重要な書物はいかなるものでも、続けて
二度読むべき」
見計らったように、筑摩書房の文庫担当編集者からこの本、『知的創造のヒント』をお送りいただきました。
本書も、出版されたばかりの新刊(10月10日発売)ですが、書き下ろしではなく、1977年11月に刊行された同名書籍の復刻版です。講談社現代新書を古本屋で見つけたつもりで、往年の売れっ子作家の発想のひみつを探ってみることにしましょう。
読みはじめてすぐに感嘆したのは、「ちっとも古くない」ということです。
本書が発売された1977年を和暦になおすと昭和52年です。
キャンディーズが解散し、王選手が通算756号ホームランを打ったこの年、ケイタイもインターネットも無いのはもちろん、ワープロもパソコンもまだ発売されていませんでした。
紙媒体で手に入れた情報を保存、整理しようと思えばスクラップブックを使うのが当たり前で、やっとコピー機が普及してきたころです。
そんな時代に、著者の外山氏は、これからは記憶よりも創造性を重視すべきだと提案しています。
創造力を高めるための工夫(今風にいえば Life Hack術)もたくさん挙げていますが、特に今の私に響いたのは、頭をからっぽにしておくことの大切さです。
外山氏の言葉を引用します。
「いろいろな知識をもっているというのは、さまざまな利害関係で
がんじがらめになっていることを意味する。そういう頭脳では
自由奔放なことを考えるのは困難であろう」
「勤勉な人ほどものを考えないタイプが多い」
先日取りあげた『フォーカス・リーディング』でも、
「読書をすればするほど、自分の頭で考えなくなる」
とか
「これは、たくさん本を読む人にとくにありがちな現象です」
と、速読本のくせに、たくさん本を読む弊害からスタートしていました。
こういう本に続けて出会うというのは、「もっと自分で考えよ」という天の啓示か、「もっと自分で考えた方がいいのかなぁ……」という私自身の深層(無意識)が発する声なのでしょう。
外山氏の本の内容に戻りましょう。
この本が古さを感じさせないもうひとつの理由は、最近読んだ本と共通する内容をいくつも見つけたからです。
たとえば、外山氏は睡眠の効用を次のように述べています。
眠りは肉体の疲れを休めるのはもちろんだが、頭の中の整理をする
時間でもある。目をさましている間に入ってきたおびただしい情報、
刺戟が仕分けされて、当面不要なものは忘れるルートへ載せられる。
茂木健一郎さんの本で同じことを知ったのはつい最近でしたが、脳科学が注目を集めていない30年前に、サラッと教えてくれていたのです。
茂木健一郎さんつながりでいうと、「セレンディピティー」という、茂木さんがよく使う言葉も出ていました。当時から科学者には親しまれている日常語のひとつだとか。
次は、散歩の効用について。
散歩という言葉はぶらりぶらりのそぞろ歩きを連想させるが、それ
ではカタルシスはおこりにくい。相当早足に歩く。はじめのうち頭
はさっぱりしていないが、20分、30分と歩きつづけていると、霧が
はれるように、頭をとりまいていたモヤモヤが消えていく。
おお! 『脳が悦ぶと人は必ず成功する』で佐藤富雄さんが言ってたことと同じじゃありませんか。
よし、今週末も早朝ウォーキングするぞ!
2年前に出した同じ外山氏の復刻版『思考の整理学』は50万部のベストセラーになったそうです。
いろんな気づきを与えてくれる今度の『知的創造のヒント』も、きっと多くの人に支持されるでしょう。