ダメな議論


副題:論理思考で見抜く
著者:飯田 泰之  出版社:ちくま新書  2006年11月刊  \714(税込)  205P


ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)    購入する際は、こちらから


著者の飯田氏は東京大学の経済学部博士課程を単位取得中退したあと、現在、駒澤大学経済学部専任講師を務める、自称「駆け出し経済学者」です。


2〜3年前に金融政策について論文や著書を執筆したときのこと。内容に対する批判に答えるうちに、「意味のある批判」と「意味のない批判」があることに気づきました。
議論しているにもかかわらず、ちっとも内容が深まらない。こちらが見解を改めるような鋭い論拠もなく、単に自説を繰り返すだけ。
何十回読んでも何の利益もない議論(=ダメな議論)が世の中に存在する。この事実を知ったことが本書の出版につながりました。


科学的に間違ったことでも、なぜ多くの人々が正しいと思ってしまったのか。誤った考え方に賛同してしまわない、納得してしまわない方法はないものか。
「正しく、有用なもの」にたどり着くため、本書は、この大きな2つの疑問に答えを出しながら進んでいきます。


飯田氏によれば、人は、自分に心地よい見解に賛同する傾向があるそうです。
たとえば、「成功の秘訣は何か?」という問いに対する答は、回答者の社会的地位によって変わってきます。
高所得で裕福に暮らす人の多くは、「才能と努力で成功・不成功が決まる」という意見を持っています。かたや低所得者層では「成功するかどうかは運によって決まる」という考え方に支持が集まるそうです。成功者は自分の実力のおかげと思いたがり、成功していない人は自分の実力のせいで成功していないのだと思いたくない、という心理です。
ですから、多くの人の心に受け入れられやすいように巧妙にしくまれた議論は、たとえ間違った内容でもすんなりと社会に受け入れられます。しかも、一度定着して「常識」になってしまうと、誤った常識はさらに誤った常識を呼んで増殖を続け、おかしな社会を作り上げてしまう。


なんと恐ろしいことでしょうか。


といって、世の中に広く受け入れられている“常識”を全て論理的に検討するのは不可能です。
それでも飯田氏によれば、「無内容な主張」や「明らかに間違っている言説」を見分けることはそれほど難しくありません。見分けるためには5つのチェックポイントがあり、誤った議論をこの5つの視点でチェックすればほとんど「×」になってしまう、というのが本書のメインの内容です。


さすが経済学者らしく、例題に引いているのは、「最近の若者のニート化問題」「日本の物価は世界一高いか」「食料安保論(自給率を上昇せよ)は正しいか」「“財政ハルマゲドン”(財政危機で日本が破綻する)は本当か」などなど。
かつてマスコミで何度も取り上げられ、今や常識化している認識は、本当は間違っている。ダメな議論なんだ。と教えてくれます。


政治・経済の提言が何がなんだか分からなくなりそうな副作用があります。
もうひとつ、「よし、もっと本を読んで勉強するぞ!」と意欲が湧く副作用も。