副題:誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講
著者:ヨラム・バウマン/著,グレディ・クライン/イラスト,山形浩生/訳
出版社:ダイヤモンド社 2011年11月刊 \1,575(税込) 217P
この世で一番おもしろいマクロ経済学
副題:みんながもっと豊かになれるかもしれない16講
著者:ヨラム・バウマン/著,グレディ・クライン/イラスト,山形浩生/訳
出版社:ダイヤモンド社 2012年5月刊 \1,575(税込) 232P
経済学の基礎をやさしく解説するアメリカ生れのマンガである。
著者のヨラム・バウマン氏はワシントン大学等で教鞭をとるかたわら、「世界でただ一人のお笑いエコノミスト」(自称)として活躍中の経済学者だ。
経済ネタを駆使するスタンドアップ・コメディアンだから、難しいことをお笑いに乗せるのはお手のもの。
経済学の基本を分かりやすく解説してするために、漫画家のグレディ・クライン氏とタッグを組んだのがこの2冊だ。
それぞれ、16に分けたチャプターで、ミクロ経済とマクロ経済を分かりやすく解説してくれる。
しかも、ただの漫画じゃない。
経済学で有名な2人が絶賛している。
一人は、経済学のベストセラー教科書を書いたグレゴリー・マンキューというハーバード大学経済学部教授で、
「経済学の勉強は楽しくなくちゃ。この本はそれを見事に実現した!」
と褒めている。
もう一人は2007年度のノーベル経済学賞受賞者エリック・マスキンで、
「経済学の重要な考え方について、シンプルに、正確に、そして楽しく説明した素晴らしい仕事。これは偉業だ!」
と、手放しと言ってよい讃辞をおくっている。
訳者の山形浩生氏も解説のなかで、「ミクロ編」が経済学の10大原理のうちミクロに関する7つをおおむねカバーしていることを評価している。
まぁ、とにかく、分かりやすくて勉強になる本! らしいのだ。
実際に読んでみると、確かに、いままで敬遠してきた経済学用語を、少しは分かった気にさせてくれる。
サンクコスト(埋没費用)、限界便益、限界費用、比較優位……。
なかには、「パレート効率性」や、「共有地の悲劇」のように、はじめて聞く用語も、分かったような気にさせてくれる。
「マクロ編」に入っても、マクロ経済学の2大目標、自由貿易と比較優位、地球温暖化を解決するための「市場」の使い方など、興味深い問題を解説してくれた。
なんとなく分かった気になったのは確かなのだが、もう一度読み返してみると、あれれ? ちっとも頭に入っていないことに気づいてがっかりした。
やはり、経済学用語に慣れていないと、分かった気になったぐらいでは記憶に残るところまでいかないようだ。
たしかに、「コックを5人雇うつもりだが、6人のほうがいいかな?」という日常会話を、「限界労働生産の価値は賃金率よりも高いかしら?」なんて言う人なんていない。少なくとも、僕の周りには。
「経済学業界語」と本書に書いてある通り、経済学用語は「業界」だけに通じる特殊用語なのかもしれない。
さて、歴史をたどってみると、経済学はいろいろな経済現象を説明し、解決してきた。
たとえば、かつて輸出を善、輸入を悪と考える重商主義という考え方があり、経済成長のためには何でも自分で作らねばないと考える自給自足論者もいた。
しかし、本書では、
貿易は勝ち組も負け組も生むが、長期的には、万人にとってかなりすごい
ということが定説になっていることを教えてくれる。
金融政策についても、かつては「アメリカが金本位制を捨てれば、西洋文明の終わりだ」という主張があったが、金本位制がなくなっても、欧米の繁栄はつづいているし、世界経済は拡大している。
しかし、本書も指摘するように、ミクロ経済学も、マクロ経済学も、大きな問いに答えを出せていない。
それは、ミクロ経済学の場合は、
個人にとっての最適化の結果が、集団全体にとってもよい結果になるのはどんな場合か
という問題で、マクロ経済学の場合は、
経済成長を説明すること(長期的に生活水準を高め、今日の子どもたちがおじいさんたちよりいい暮らしを送れるようにする)
経済法書くを説明すること(好景気と不景気がなぜ起こるのか、大恐慌がなぜ起こるのかを解明する)
という問題に答えることだ。
つまり、まだまだ解明されていないことがある。
これは、「経済学は、ちっとも問題を解決していない」と見ることもできるし、「経済学は、まだまだ発展の余地がある」と見ることもできる。
本書「マクロ編」の Chapter 14 には、「悲観論者は間違っている。……でも楽観論者も間違っているんだ」との記述がある。
世界が解明できていないからといって、悲観したり楽観したりしないほうがいい、と著者は公平な立場をとっているように見える。
だが、本書のイラストは、登場する人物のほとんどがニコニコしている。
著者も作画者も「世界は少しずつ良くなっているし、これからも良くなっていく」と楽観しているに違いない、と僕は思った。
どうせなら、「世界は崖っぷちに向かって突進している」、と心配するより、「世界中が豊かで安心な社会を築く方法がきっとある」と考えて生きていきたい。
著者が伝えたかったのは、そういうことだ。きっと。