環境問題はなぜウソがまかり通るのか


著者:武田 邦彦  出版社:洋泉社  2007年3月刊  \1,000(税込)  221P


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前回ご紹介した『ダメな議論』につづき、社会問題を自分の頭で考えることの大切さを教えてくれる本を読みました。
題材は環境問題です。


高度成長期に発生したヒ素ミルク事件や水俣病などの反省からでしょうか。環境や健康に害悪をおよぼす疑いのある事件が起きると、いっせいにマスコミでバッシングされる風潮が定着しました。
40歳代以上の方は覚えておられると思いますが、昭和40年代のなかばまで「チクロ」という人口甘味料がありました。ある時、チクロには発ガン性があるということが大騒ぎになり、使用禁止になります。そのころ水に溶かしてジュースを作る粉末ジュースという製品がありましたが、チクロ禁止のおかげで、一斉に店頭から姿を消したことを覚えています。
ところが、本書によれば、チクロには発ガン性がなかったという最終報告が2000年の朝日新聞に掲載されています。「魚の焦げは発ガン性物質」と思っておられる方も多いと思いますが、こちらも2001年に訂正報道があったとのことです。


環境問題には、これと同じように間違った報道や故意の誤報が多い。それは、いったい何故なのか。というのが本書の主題です。


なかでも1章まるごと使って述べているのが、「ダイオキシンはいかにして猛毒に仕立て上げられたか」です。
ダイオキシンは猛毒である、と一般には信じられていますが、著者の武田氏は2001年に東大医学部の和田功教授(当時)の論文を読んでショックを受けます。論文は、ダイオキシンが人体に及ぼす毒性は実証されていない、急性毒性も非常に弱いと思われる、という趣旨でした。
武田氏は、自分が資源材料学を専門とする科学者でありながら、ダイオキシンについてはマスコミの報道を鵜呑みにしていたことを反省させられます。その後、丹念に調査を進めた結果、著者は「ダイオキシンにほとんど毒性がない」と確信するようになり、本書で30ページ以上にわたって、この結論に達した論拠と、ダイオキシン報道をめぐるマスコミの無責任さを糾弾しています。


その他、地球温暖化騒ぎで故意の誤報が頻発している、水素エネルギーはちっとも環境にやさしくない、京都議定書ぐらいでは地球温暖化を防げない、等々。


なぜ、こんなに「故意の誤報」が相次ぐのでしょうか。
武田氏は「環境がお金になるから」と言っています。
ミもフタもないご意見ですが、これが真実なのかもしれません。


そう言われれば、ダイオキシン騒ぎで全国の自治体のゴミ焼却場は大規模な改修を余儀なくされ、設備メーカーには特需が舞い込みました。
チリ紙交換屋さんが集めていた古新聞は自治体の資源回収に主体が置き換えられ、“民営化”の反対で「民」から「官」に事業が移りました。一番おいしい思いをしたのは、低価格で古紙を入手できるようになった製紙業界だったといいます。


しかし、なんといってもショックなのが、ペットボトルの処理法です。


2004年の統計によると、ペットボトルの年間消費量51万トンのうち、分別回収量が24万トンで、再利用されたのはたったの3万トン。残りは焼却されたり産業廃棄物として処分されるそうです。
わざわざ分別しているのに、結局ゴミ扱いされちゃう!?
しかも、お役所と容器包装リサイクル協会は、「焼却」をリサイクルにカウントして、この事実を目立たせないようにしているとのこと。


許せん!!


著者の怒りが読者にも乗り移ってくる一書でした。


個人的な感想になりますが、本書の「チクロ使用禁止」というのは懐かしい話題でした。
人工的なもの、新しいものにはすべて毒が入っている。まだ見つかっていないだけで、そのうち、あれもこれも「やっぱり毒性がありました」という結果が出るに違いない。
当時は、社会全体にそんなムードが漂っていたものです。
そのムードを頭から信じきっていた私の母親は、特にインスタントラーメンを信用していませんでした。「たくさん食べると、絶対に体を壊す」と言い、なかなか食べさせてもらえません。


ところが、私が小学校3年生の頃、事件が起こりました。我が母校は全校生徒20名で給食設備もありませんでしたが、全国的に進められていた学校給食推進の流れがやってきたのです。
設備が整えられない学校でも、ドンブリとカップだけで食べられるメニュー。
そうです。インスタントラーメンと脱脂粉乳の給食がはじまりました。


学校が決めたことですので文句は言いませんでしたが、きっと母親は「子どもに毒を食わせている」と苦々しく思っていたことでしょう。母親の思いが通じたのか、それともさすがに毎日同じメニューという異常さが問題になったのか、ラーメン給食はその後1年か2年で終了しました。


あの頃を懐かしく思い出すと同時に、「子どもに有害食品を食べさせたくない」という親心がやっと理解できるようになったことに感慨を覚えます。


最近も、アメリカ産牛肉が輸入再開された直後にBSEの危険部位の混入が報道されたとき、我が家では牛丼を食べるのをやめました。
自分とカミさんだけなら食べたでしょう。しかし、何十年後かに発病するかもしれない危ないものを、まだ幼稚園生の娘に食べさせるわけにはいかない。そう考えたからです。


何年かしたら、「そんなこと気にしたこともあったね」と笑い話になるかもしれませんが、今はまだ恐ろしいと感じています。


マスコミですり込まれた情報は強力ですね。