副題:カスタマー・エクイティの構築
著者:ロバート・ブラットバーグ ゲイリー・ゲッツ ジャクリーン・トーマス【著】
小川孔輔 小野譲司【監訳】
出版社:ダイヤモンド社 2002年9月刊 \2,940(税込) 255P
2001年7月に米国で出版され、翌年日本で翻訳版が出版されたマーケティングの本です。
マーケティングの世界では、顧客を常連客として囲い込んで収益率の極大化をはかることを目的とするCRM(Customer Relationship Management)という手法がよく知られています。
常連客を増やすことは確かに大切です。しかし、いくら頑張っても離れていく客もいるわけですから、顧客維持だけを強調するのはおかしいのではないか。新規顧客の獲得も重要だし、常連客にいつもの商品を買ってもらうだけでなく、新しい製品を買ってもらう工夫も大切だ。要は、全体のバランスなのだ。という考え方を詳しく解説したのが本書です。
本書のメインテーマであるカスタマー・エクイティは、「顧客資産」と訳されています。門外漢の私は、最初、「顧客の資産」と思っていましたが、違いました。
顧客がどれくらい商品を買ってくれるか、という数字から、そのために使う宣伝やプロモーション費用やアフターサービス費用を除いた金額を会社の資産と考えよう、という考え方でした。「顧客は資産だ!」から漢字だけを抜粋したようです。
(さっそく余談ですが、こういう誤解を与えるような訳語には腹が立ちます。先日も「限界利益」という会計用語を聞いて「ギリギリの利益」と思ったら間違ってました。横文字を振り回すIT関係者も鼻につきますが、一般人には分からない訳語で固めたビジネス業界人もイヤですねぇ)
顧客は資産、という当然といえば当然の発想も、売上げ点数と売上げ金額の合計しか把握できない状態では、資産価値を評価することもできませんでした。
ところが、コンピュータの発達のおかげで、どのお客様がいつ何を買ったか、という情報を集められるようになります。個々のお客様を追跡していくと、初回購入から常連になり、やがて購入しなくなる(離脱する)という顧客ライフサイクルを分析できるようになったのです。
本書は、顧客との関係を、新規顧客獲得、顧客維持、追加販売の3つのアプローチに分け、各段階の売上げと顧客に働きかける費用の差を細かく計算し、合計金額を最大にするような戦略を考えていくことを提唱しています。
一般的に、新規顧客を獲得するのは大変です。巨額の広告費を使い、キャンペーン価格で割引をし、営業マンが見込み客をたくさん訪問して、やっとの思いで最初の購入にこぎ着けます。単純に初回購入顧客の売上げから新規顧客獲得のための費用を引き算すると、ほとんどの企業はマイナスになるそうです。
それに比べると、いったん常連になってくれたお客様は、継続的に通常価格の商品やサービスを購入してくれますので、この段階だけを集計すると、とても高い利益率になります。
だからといって、新規顧客キャンペーンに手を抜くと企業はじり貧になりますし、常連客を引き留めるために「会員割引」を乱発すると利益率はがた落ちします。
すべてを考慮して、しっかりした数値を元に戦略を立てるのが大切。……ということは理解しました。
とはいえ、原則を理解したということと、使いこなせるというのは別問題。
具体的な計算例も出ているのですが、実際にやってみるのは難しそうです。もっと詳しい実例やデータがインターネットに公開されている、というのでさっそくアクセスしてみたのですが、「The page cannot be found」と表示されました。
米国版が出版されてから5年も経つと、本を買ってくれた人へのサービスも終わってしまうのですね。
マーケティングに携わる方には、とても大切な考え方が書かれた本です。関係者だけにお薦めします。