死んだらいけない


2004年5月刊  著者:石川 文洋  出版社:日本経済新聞社  \1,000(税込)  80P


死んだらいけない


本書は写真エッセイの形をとっていて、著者が戦地で撮影した写真のページと著者のメッセージのページが交互に登場します。
多くの写真には戦争で苦しんでいる庶民の姿が示されます。戦争中の国や紛争地域の写真ですから、血を流している人や死体が映っているものもあります。なかには、銃声が中断しているような美しいのどかな景色もありますが、かえって戦争の悲惨さを伝えています。
その戦場写真を通じて著者が送るメッセージは、「たとえいじめられてしても、死のうと思っていても。あきらめてはいけない」という帯のことばに集約されています。簡単に命を捨てる若者や子供たちにあてた著者の叫びです。


著者は沖縄生まれで、太平洋戦争のさなかに一家が本土に移住しなければ著者は沖縄戦で殺されていたかもしれない、と述懐します。
著者は26歳のとき世界一周無銭旅行をしたい、と何の計画もなく日本を出発しました。香港でカメラマンの仕事を見つけ、ベトナムにかかわりはじめ、人生が変わりました。
戦場カメラマンとして1965年〜1968年ベトナム戦争を取材し、その後カンボジアの虐殺アフガニスタンサラエボ等の紛争地域に実際に足を運び、戦争や内戦で苦しむ庶民の姿を撮り続けてきました。


戦場カメラマンといえば、ロバート・キャパ沢田教一が有名です。ふたりとも衝撃的な写真を発表しましたが、取材中に命を落としました。二人が有名な要因のひとつは、いたましい最期を迎えたことにあるでしょう。ふたりと違い、著者は戦場から生きて返ってきました。キャパや沢田教一のように伝説の人にはなりませんでしたが、その代わり、戦場で体験したことの意味を自分のことばで語りかける命の時間をもつことが許されました。


本書は「命が大切なことはだれでも知っていることという。でも、本当に知っているのだろうか」とはじまり、「私は『命(ぬち)どぅ宝』と思っている。生きること、それ自体がすばらしい、と思っている」と結ばれます。


若者や子供たちだけでなく、競争に疲れた大人にもお薦めの一書です。