ビジネスエリートの新論語


著者:司馬 遼太郎  出版社:文藝春秋  2016年12月刊  \929(税込)  200P


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帯に「20年ぶりの新刊!」と書いてある。


国民的作家として知られる司馬遼太郎の新刊なのだから、未発表小説が見つかったのか! と期待する人もいるかもしれないが、残念ながらそうではない。


本書の内容は、サラリーマン向け警句集である。
しかも、はじめに出版されたのが昭和30年だから、厳密に言うと「新刊」ではなく「復刊」である。


昭和30年に発刊されたもとの本の題名は
  『名言随筆サラリーマン ユーモア新論語
といい、著者名は「司馬遼太郎」ではなく本名の「福田定一」だった。


まだ司馬遼太郎産経新聞記者をやっていた時代で、直木賞を受賞する5年前のことである。


その後、『坂の上の雲』の連載が終わる昭和47年に『ビジネスエリートの新論語』として復刊されたが、この時の筆者名は本名のままだったというから、「司馬遼太郎」は小説を書くときしか使わない、というこだわりがあったのだろう。


もし本人が生きていたら、有名になる前の原稿が「司馬遼太郎」の名前で刊行されることもなかったのかもしれない。


そういう意味で、2度目の復刊であり、司馬遼太郎の「初の新書」でもある本書は注目すべき作品である。

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あしたを生きることば


副題:33万人が涙! いのちが震えるフルート・オカリナ・メッセージCD付
著者:さくらいりょうこ  出版社:SBクリエイティブ  2017年4月刊  \1,490(税込)  157P


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出版社さん、編集者さん、著者さんから書籍をお送りいただく機会が増えましたが、せっかくお送りいただいても、僕の読書スピードが追いつかず、レビューしきれません。
せめて、書名と内容の概略を紹介させていただきます。

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ツバキ文具店


著者:小川 糸  出版社:幻冬舎  2016年4月刊  \1,512(税込)  269P


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木曜深夜にTBSで放送している『ゴロウ・デラックス』という番組をご存じだろうか。


「業界唯一無二のブックバラエティ」というキャッチフレーズの番組で、稲垣吾郎が本の著者をスタジオに呼んで、毎週1冊、ゲストの本の内容を紹介している。


ことし1月26日、作家の浅田次郎が出演した回の放送を見ていて、グッときた言葉があった。


浅田次郎は原稿を書くときにパソコンを使わず、専用の原稿用紙に手書きで原稿を書いている数少ない作家だ。
その浅田次郎が、なぜ手書きを続けているかと尋ねられたとき、

パソコンも覚えようとしたけど、エクスタシーを感じなかった

と答えた。


そうか。
手書きは気持ちがいいのか。


もうずいぶん長いこと文章を手書きしていないが、手書きで書いていたころは、たしかに心地よさを感じながら書いていた気がする。


でも、いまさら手書きにもどせないなぁ……、と思っていたとき、この『ツバキ文具店』という小説を手にとった。


先祖代々続いてきた代書屋(依頼人の代わりに手紙を書いたり、宛名を清書したりする仕事)の跡取り娘の物語である。

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罪の声


著者:塩田 武士  出版社:講談社  2016年8月刊  \1,782(税込)  409P


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昭和最大の未解決事件「グリコ・森永事件」を題材にした小説である。


グリコ・森永事件というのは、もう30年以上前の事件なので、知らない人のために説明すると、江崎グリコや森永製菓など複数の食品会社を脅迫した一連の事件の総称である。


始まりは1984年(昭和59年)3月、江崎グリコの社長が、自宅で入浴中に拉致・誘拐されることから始まった。


社長は数日後に自力脱出したものの、億単位の金を要求する脅迫状が何度も届き、その後も丸大食品、森永製菓、ハウス食品不二家駿河屋など食品企業がターゲットにされる。


青酸入りのお菓子を小売店に置いたり、警察が現金受け渡し現場で犯人を逃してしまったり、事件の推移が注目を集めたほか、犯人がマスコミに送りつけた「挑戦状」が大きく報道された。


1985年8月、犯人側から一方的に終息宣言が送りつけられた。その後、表だった動きがなくなって事件は終結し、2000年にすべての事件の時効が成立した。


以上が、グリコ・森永事件の概要である。

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脇坂副署長の長い一日


著者:真保 裕一  出版社:集英社  2016年11月刊  \1,728(税込)  371P


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書店の棚を巡っていて、「おいでおいで」と呼ばれているような気がして手に取った。


著者の真保裕一氏の作品は、『ローカル線で行こう!』を3年前に読んだことがあり、真保氏原作の映画『ホワイト・アウト』、『アマルフィ』、『アンダルシア』を見たことがある程度で、特別にファンというわけではない。


『ローカル線で行こう!』は、新幹線のカリスマ・アテンダント赤字ローカル線の経営を立て直す物語。


『ホワイト・アウト』は一人でテロリスト達を倒すという、日本版『ダイ・ハード』のような映画で、『アマルフィ』と『アンダルシア』は誘拐事件や銀行の不正融資を舞台にしたヒーローものだった。


内容は違うが、ハラハラ、ドキドキしながら最後まで目を離せない作品という共通点があった。


この本の帯にも、

「刻一刻と迫る危機!」
「予測不能の24時間」

とある。


今回もジェットコースターのような展開を期待してレジへ向かった。

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ゲルダ・タローの評伝


書名:ゲルダ
副題:キャパが愛した女性写真家の生涯
著者:イルメ・シャーバー 高田ゆみ子/訳  出版社:祥伝社  2015年11月刊  \2,268(税込)  457P


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書名:ゲルダ・タロー
副題:ロバート・キャパを創った女性
著者:ジェーン・ロゴイスカ 木下哲夫/訳  出版社:白水社  2016年9月刊  \5,832(税込)  322P


ゲルダ・タロー:ロバート・キャパを創った女性    ご購入は、こちらから


日本でも、世界でも、あまり知られていない女性写真家の評伝を取りあげる。


彼女の名前はゲルタ・ポホリレ。
1910年8月にドイツのシュトゥットガルトで、ユダヤ人家庭に生まれた。


22歳のとき、弟が反ナチスのビラをまいて逃げたことから、ドイツに居られなくなり、フランスのパリに逃れる。


まだ無名だった写真家のロバート・キャパと24歳で出会い、25歳から仕事と生活のパートナーになる。


スペイン戦争が勃発すると、カメラマンとしてキャパと共にスペインへ赴き、各地を取材して回った。


何度かキャパとの共同取材と単独取材を行ったあと、1937年7月、前線の取材中に暴走する戦車に轢かれて死亡した。


27歳の誕生日の一週間前。早すぎる死だった。


ドイツとイタリアのファシズムが勢力を拡げるなか、当時のスペイン内戦はヨーロッパ中の注目を集めていた。


そのスペインの戦況を伝えていたうら若き女性カメラマンの死は、当時のマスコミで大きく取りあげられた。盛大な葬儀がパリで行われ、時の人となった彼女だったが、やがて月日とともに忘れ去られていく。


今日取りあげるのは、彼女の死から50年以上経ってから書かれた2冊の評伝である。

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校閲ガール トルネード


著者:宮木あや子  出版社:KADOKAWA  2016年10月刊  \1,404(税込)  219P


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毎週水曜日、夜10時から日本テレビ系列で放送している『地味にスゴイ! 校閲ガール』の原作本である。


今日取りあげる『校閲ガール トルネード』はシリーズ第3作。


ぼくはシリーズ第1作の『校閲ガール』からこの「読書ノート」で取りあげていて、第2作『校閲ガール ア・ラ・モード』のレビューに、次のように書いた。

みんなが応援すれば、3冊目も出るかもしれないから、買ってあげてね〜。


校閲部」という地味な職場を舞台にした小説だから、少しでも盛り上げるつもりで書いたのだが、まさか石原さとみ主演でテレビドラマになるとは思わなかった。


ドラマに後押しされたように出版されたのが、この第3弾『校閲ガール トルネード』だ。

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