著者:真保 裕一 出版社:集英社 2016年11月刊 \1,728(税込) 371P
書店の棚を巡っていて、「おいでおいで」と呼ばれているような気がして手に取った。
著者の真保裕一氏の作品は、『ローカル線で行こう!』を3年前に読んだことがあり、真保氏原作の映画『ホワイト・アウト』、『アマルフィ』、『アンダルシア』を見たことがある程度で、特別にファンというわけではない。
『ローカル線で行こう!』は、新幹線のカリスマ・アテンダントが赤字ローカル線の経営を立て直す物語。
『ホワイト・アウト』は一人でテロリスト達を倒すという、日本版『ダイ・ハード』のような映画で、『アマルフィ』と『アンダルシア』は誘拐事件や銀行の不正融資を舞台にしたヒーローものだった。
内容は違うが、ハラハラ、ドキドキしながら最後まで目を離せない作品という共通点があった。
この本の帯にも、
「刻一刻と迫る危機!」
「予測不能の24時間」
とある。
今回もジェットコースターのような展開を期待してレジへ向かった。
主人公の脇坂は、所轄警察の副署長を務めるノンキャリアの警察官である。
事件捜査を長く経験してきたが、あるとき捜査現場から外されてしまい、副所長になった今も、機会あらば現場復帰したいと思っている。
そんな脇坂副所長の長いながい一日は、深夜0時過ぎにかかってきた娘からの電話で幕をあける。
脇坂は、ふだんは仕事の都合で狭いワンルームの官舎で寝泊まりしている。
娘は結婚して家を出ているので、自宅は妻と大学生の息子が留守を守っているはずなのだが、深夜0時過ぎの娘の電話によると、妻も息子も家にもどってこないという。
何かあったのかもしれない、と娘は心配するが、脇坂は「いい大人なんだから飲んで遅くなることもある」と動じない。
官舎で横になってやっと2時間眠ったころ、今度は警察署の通信係からの電話で起こされた。
県道でスクーターの事故があったが、運転手が行方不明。
運転していたのは署の地域三係に所属する警官と思われるが、本人は電話に出ないので、故障か電源を切っているらしい。
しかも、今日はインフルエンザで休んでいるはず。スクーターで出かけたということは仮病の疑いがある。連絡が付かないのは、何か事件を起こしているからかもしれない。
警察官が不祥事を起こしたとなると、マスコミ沙汰になって大問題に発展する。そうなると、自分の現場復帰は難しくなってしまう……。
「鑑識作業を急がせろ」
「行方のわからない署員を追わせろ」
「現場に可能な限り、人を回せ」
脇坂は、次々と指示を飛ばした。
折り悪く、この日は地元出身の女性アイドル歌手が来て、一日署長のイベントが開かれる予定だ。
ファンやマスコミが大勢やってくるだけでなく、次の国家公安委員長を噂される地元の大物代議士も顔を出すし、県警のナンバー2の幹部まで立ち会うことになっている。
ともかく、行方不明の警官の自宅へ行って母親から話を聞こうと、身仕度を整えていると、娘から電話が入り、家に戻ってこない弟の行方が分かった、という。
喧嘩で軽いケガをして病院に運ばれた、と警察から連絡があったのだ。
すぐに病院に行って軽はずみな息子を怒鳴りつけたい、と思ったが、ここは娘にまかせるしかない。
長い1日は始まったばかりなのに、困った問題が2つ、3つと発生している。
このあとも、行方不明の警察官が、実は前科のある青年と突き合っていたことが発覚し、しかも何か行動を起こそうとしていることが明らかになってくる。
一日署長イベントにやってくる代議士や県警幹部の対応をしながら、マスコミに怪しまれないように行方不明の警察官の捜索指揮をとり、合間の娘との電話で息子の喧嘩になにやら秘密があることを知る。
身も心も安まるヒマもなく対応するが、事態はさらに複雑になっていく。
一日署長のアイドル歌手が薬物使用している、との匿名のタレ込みがあり、芸能事務所のワゴン車から白い粉の入った袋が見つかったのだ。
息子と、行方不明警察官と、アイドル歌手の行動が絡まりあい、やがて一つの大きな渦に巻き込まれていく。
ここから先は、いつも通り、読んでのお楽しみとさせていただく。
次々と起こる事件に翻弄され、右往左往しているように見える脇坂副署長だが、少ない情報をもとに、署内の人間関係を考慮しながら適切な指示を飛ばす姿がカッコいい。
頑固オヤジなのにカッコいい、というアンバランスがいい!