著者:國分 功一郎 出版社:太田出版 2015年3月刊 \1,296(税込) 437P
(前回からのつづき)
第六章 暇と退屈の人間学
ハイデッガーの解決策が納得できない國分氏は、納得できない理由として「ハイデッガーは“人間だけが退屈する”と考えている」ことを挙げている。
第六章では、國分氏から見てハイデッガーの考えが偏狭に見える理由を深掘りしている。人間と動物のちがいを延々と比べているので、章のタイトルは「人間学」よりも「生物学」の方がふさわしいかもしれない。
國分氏はハイデッガーが批判した理論生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュル[1864-1944]の「環世界」という概念を紹介し、ハイデッガーと違った自分の解釈を述べていく。
「ダニが動物の血を吸うためにどのような待ち伏せをするか」、ということに10ページも割かれていたり、ミツバチの巣箱を移動してどうやって帰ってくるかを観察したり、蜜を吸いはじめたミツバチの腹に切りこみを入れて満腹しないようにしたら蜜を吸いつづけるかどうか実験したりして、動物の環境認識方法と人間の環境認識方法の比較はおもしろかった。
世の中には虫が大っきらいな人もいるので、虫ぎらいな人に興味がもてるかどうかは別として、ぼくが疑問に思ったのは、こうやって「退屈」という人間の心理現象の解明しようとするのは、はたして「哲学」なのだろうか? ということだ。
ハイデッガーの時代には先端科学だったかもしれないが、もう70年以上まえの生物学を根拠に論を進められても引いてしまう。
ハイデッガーの地平まで下りることにこだわる必要はなかったと思うが、ハイデッガーの退屈論を批判的に検討するためには仕方なかったのだろう。
(次回につづく)