小飼弾の失言学


著者:小飼 弾  出版社:洋泉社  2013年11月刊  \1,575(税込)  188P


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この本は、編集者さんから送っていただいた「献本」である。


2008年の秋から1年間、月刊「宝島」に隔々月(3ヵ月に一度)で書評を連載していたことがある。
連載タイトルは、「書評アルファブロガー厳選2冊」だった。


えっ、僕がアルファブロガー? と自分でもびっくりしながら連載していたのだが、この連載を担当していたのが本書を送ってくれたフリー編集者のNさんだ。


当時、「厳選2冊」の次のページに小飼弾氏が「今月の踏んだクソ本」という連載を書いていた。名前のとおり、「いい本」ではなく「いやな本」を取り上げるコーナーで、小飼氏はダメ本を切りまくっていた。


連載を開始したとき、「私が今まで受けた仕事では、最もキツい仕事」と自身のブログに書いていたが、いやいや、そんなはずはない。
気に入った本はベタ褒めする一方で、気に入らない作品をけなす小飼氏の舌鋒はするどい。いや鋭すぎる。


最近も、スタジオジブリの新作アニメ『風立ちぬ』の映画を評して、
  金返せ。
  作品としては認められても、製品としては認められない。
と酷評していた。


日本中で大人気のジブリ作品でも、言うべきことは言う。
そんな毒舌キャラの小飼氏が、有名人の「失言」をメッタ切りにするのが本書だ。


小飼氏は、まず「失言」が「失言」たるゆえんを次のように喝破する。

  失言は、発言そのものではなく、立場が決める


同じ発言でも、一般人がつぶやいた個人的感想は「失言」にあたらないが、社会的な立ち位置を台なしにするような発言をすると「失言」になる、というのだ。


たとえば「王様の耳はロバの耳」と地面の穴に向かって叫んだ理髪師は、王様に仕える立場でありながら、王様が隠そうとしている秘密をバラすようなことを言ってしまった。
これは、秘密がもれたら命に及ぶような大失言なのである。


為政者や社会的に高い地位にある人は、その立場にふさわしい発言をしなければならず、立場をわきまえない発言は、「失言」と見なされてしまう。


だから為政者は、昔から役人の書いた台本を棒読みし、個人的感想や思いつき発言をしないように注意してきたのだ。


しかし、立場にふさわしい発言だけしていると、面白みのない人間と思われてしまい、社会的影響力が減っていってしまう。
かまうこたぁない! とばかりに、問題発言を繰り返し、とうとう「失言キャラ」に認定されてしまう人も多い。


小飼氏が挙げるのは、石原慎太郎田中眞紀子森喜朗麻生太郎渡邉恒雄の面々だ。
なるほど、こりゃ、濃〜いメンバーだ。


日本人だけでなく、歴史に残る大失言をした外国人や、歴史上の有名人も小飼氏は掘りおこしていく。


ここで、ひとつふたつ、失言の例を引用しようと思ったが、単に失言の内容を引用しても、インパクトが伝わらないことに気づいた。


たとえば、「ナチ『ガス室』はなかった」という発言。


ナチスドイツがアウシュビッツ収容所などでユダヤ人を大量虐殺した、というような歴史的事実はない、と言っているのだが、ホロコーストを否定する政治的立場の人がこの発言をしても、「あ〜あ、また言ってるよ」と思われるだけで、「失言」として取りあげられることはなない。


ところが、この言葉が1995年に文藝春秋社の雑誌『マルコポーロ』の見出しに載ったときの反応は違った。
アメリカのユダヤ人団体とイスラエル大使館が文藝春秋社に抗議する、という反響があり、最終的に社長と編集長が解任され、雑誌『マルコポーロ』は廃刊となったのだ。


社会的に認知されている雑誌で発表するからには、誰もが納得する理屈が通っていなければならない。
有名な会社で発行している雑誌、という立場で、ろくな理屈もなしに書いたから「失言」になった――という背景を知ってはじめて失言の大きさがわかる。


単に失言を引用するだけでは伝わらないので、小飼氏の選んだ「失言」の例示は割愛させていただく。


本書のあとがきで、小飼氏は次の3つの失言対策を掲げた。

  • あえて何も発言しない
  • 発言を徹底的に推敲して棒読みする
  • あえて何も対策しない


どれも良い選択とは言えない、と断じたあと、小飼氏は日ごろからまめに発言することを勧めて、次のように書いている。

いいんじゃないですか?
「オレは失言しない。多分しないと思う。しないんじゃないかな。ま、ちょと覚悟はしておけ」ぐらいで。

ちょっと待った! 小飼さん。


著作権を意識しなければならない作家として、さだまさしの「関白宣言」をなぞったこの発言、ちょっと問題あるんじゃないですか?
JASRACに掲載許可も取っていないようだし……。


えっ? 文頭が違っているから大丈夫? そもそもパロディならOK?


そうかなぁ、パロディにもなっていないように思うんだけどなぁ(笑)。