副題:ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰
著者:湯川 鶴章 出版社:SpikyWave株式会社 2013年6月刊 \1,250(税込) 468KB(P133)
ご購入は、こちらから (※ この本は紙の本は販売せず、Kindle版電子書籍のみ販売している)
技術者を応援する「Tech-On!」というサイトで月に1度、書評を連載している。
11月に取りあげた『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』は、セルフブランディングを指南する本だった。
グローバル化した社会で生きていくには「100人に1人」の希少性のある人材を目指しなさい。そのために7つの条件をクリアしなさい、と指導している。(詳しい内容紹介は、日経BPTech-On! サイトのこちらの書評参照)
この本を読んで、特に印象に残ったところが2つあった。
ひとつは、7つの条件の2つ目に、
「ケータイゲームを電車の中でしない人になれ!」
をあげていること。
もうひとつは、
これからは、経済的価値(年収、お金)よりも経済以外の価値
(家族、友人、個人的活動、社会貢献)を重視する生き方もある
ということ。
ちょうど、ケータイゲームの時間がだんだん長くなるのを気にしていたところだったので、すなおに藤原和博氏のアドバイスに従うことにした。
どうせiPhoneをいじるなら、電子書籍を読むことにしよう。
さて、何を読もうか……、と思いながらツイッターをながめていたら、「僕の近著が今日だけ半額セールやってるみたい」という湯川氏のツイートが目に入った。
おおっ! 「セレンディピティ」とはこのことだ。
これ読もう! とクリックしたのが今日とり上げる『未来予測』である。
著者はワクワクする新しい領域に挑戦中
著者の湯川鶴章氏は、1958年和歌山県生まれ。
大阪の高校を卒業後、渡米してカリフォルニア州立大学を卒業した。
そのまま米国に残り、サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期に米国ハイテク産業を取材していた、という珍しい経歴を持っている。
通算20年間の米国生活を終えて2000年に帰国。
時事通信編集委員として、インターネット関連記事を精力的に執筆し、ソーシャルメディア時代の到来を、誰よりも早く予測・的中させた。
あまり人を褒めない作家の日垣隆氏も、『ダダ漏れ民主主義』で次のように評している。
湯川さんは高校卒業後に若くして渡米し、カリフォルニア州立大学を卒業後、サンフランシスコの地元記者になり、八〇年代半ばからアメリカで本格化し始めた「ネット社会」を現場の真っただ中で見てきただけあって、「ネット十五年遅れ」の日本では、IT分野で時事通信社のホープであった。
2010年に独立し、ブログメディアTechWaveを創業。
2013年から編集長を降り、ワクワクする新しい領域に挑戦中である。
藤原本と湯川本の共通点と相違点
ケータイゲーム依存になるな! と叱ることで湯川氏の著作を紹介してくれた『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』には、ひとつ、湯川氏の『未来予測』と共通点があった。
それは、
これからは、経済的価値(年収、お金)よりも経済以外の価値(家族、友人、個人的活動、社会貢献)を重視する生き方もある
ということだ。(藤原本より引用)
かたや、湯川氏は『未来予測』に、次のように書いている。
今日の日本において、新しい価値観が若者の間に台頭している。それは、「お金に縛られず、自分らしく、仲間と一緒に、生きがいを持って人生を楽しく生きる」という価値観だ。
この価値観がこれから主流になっていくのだと思う。
同じことを言っているように聞こえる。
しかし、藤原氏が「新しい価値観」を、
「経済以外の価値を重視する生き方もある」
と、多様化する価値のひとつと見なしているのに対し、湯川氏は、
「この価値観がこれから主流になっていくのだと思う」
と踏みこんでいる。
たったこれだけの違いなのだが、このわずかな差が、2人の行動に反映する。
藤原和博氏は、リクルート社での地位と収入をなげうって、退職。都内の義務教育では初となる民間出身の校長として杉並区立和田中学校校長に就任したことで有名である。
いっぽうの湯川氏も、給与面では恵まれていた時事通信社を退職して新しい道を歩みはじめた。
ただし、藤原氏が公立中学校校長という既存の職業に転職したのに対し、湯川氏は、ブログメディアの立ち上げ、という前人未踏の道を選んだ。
関心領域といっしょに移りゆく
湯川氏が立ち上げた TechWave は、テクノロジーを中心としたインターネット上の話題を取りあげ、紹介するサイトだ。
それまで時事通信社サイト上で、テクノロジーやインターネット上のマーケティングについてブログ記事を書いていた湯川氏だが、まったく新しい媒体を立ち上げ、新しい読者を獲得していくという、「新しい」ずくめの道を選んだのだ。
予想していたこととはいえブログメディアの収入は少い。
貯金がみるみる減っていくなか、15名以内の参加者で行う有料のTechWave塾が軌道に乗り、湯川氏は経済的破綻を経験せずに済んだ。
湯川氏が TechWave で取りあげたインターネット上のテクノロジーの世界は、次々と新しい話題を提供してくれた。
スティーブ・ジョブズが発表する新しい魅力的な製品の数々、ジョブズの死。facebook の世界制覇と、日本発のLINEの爆発的普及、……。
これらの潮流を TechWave で紹介しながら、湯川氏の関心領域は少しずつ変化していく。
関心領域の変化は日々進行していて、本書のなかでも章を進むごとに各章のテーマが変わっていく。
「第1章 もはやNext Big Thingはない?」、「第2章 Makers革命が牽引する近未来」では、インターネット上の新しい技術の可能性、ビジネスへの影響を考察している。
ここまでは、湯川氏が得意としてきた技術、マーケティング分野だ。
ところが、「第3章 自分らしさを追求する価値観」で、時代の価値観が変わってきたことに話題が変わり、社会学や哲学の分野にふみ込みはじめる。
つづく「第4章 直感と創造力生む真理観」では、「何かを信じろ」というスティーブ・ジョブズの言葉を引きながら、経済至上主義、科学万能主義に代わり、宇宙の真理を探し求める時代がきていると主張し、スピリチュアル本の共通点を挙げ、「精神世界的な真理観の人が増えているように感じる」と結論する。
読み方によっては、ちょっとアブナイ領域に足を踏み入れているのだ。
新しい価値観へ移行するためのステップ
「自分らしく生きる」という価値観や、「人間は宇宙とつながっている」という真理観を提唱したあとで、湯川氏は、「私自身が100%信じているわけではない」と言っている。
「どっちなんだい!」とツッコミたくなるかもしれないが、これが湯川氏らしいところ。
自分の中で葛藤をかかえながら、この本を書くことで、新しい価値観や生き方へ移行しようとしているのだ。
この本の執筆に先立ち、2013年1月に湯川氏は TechWave の編集長を降りた。
自分の関心領域がテクノロジーの枠を越えていくにしたがって、テクノロジー中心の TechWave に相応しくない記事を書くことが多くなったからだ。
自身が立ち上げたブログメディアなのだから、自由に方向性を変えてもよさそうなものだが、一生懸命に記事を書いて TechWave に貢献してくれた副編集長の存在を無視することはできなかった。
湯川氏は、ブログの方向性を変えずに、自分が編集長を降りることを選んだ。
経済的に厳しくなりながらも、湯川氏は夢を追い続ける道、ワクワクする分野で徹底的に尖っていく道を進むことにしたのだ。
湯川氏のいま
この本を書くことで、自分の背中をグイッと押した湯川氏は、いまゼッコーチョー! のようである。
最後に、湯川氏のフェイスブックから、最近の書き込みをいくつか紹介させていただく。
「こいつさえいれば絶対に負けない。百人力」と思える仲間で周りを固めているので、本当に負ける気がしない。「この人達、なんてすてきなんだろう」と思う人達と仕事ができるので、楽しくて仕方がない。
直感、直感、♪。なんか気分がいいので、全部直感で決めてやるww。たのし〜!
結構長い間、迷い続けたけど、ようやくトンネルの先にはっきりとした光が見えてきた。あとは全力で走り続けるのみだ!