2005年3月刊 著者:藤田 晋 出版社:アメ−バ・ブックス \1,680(税込) 308P
成長著しいベンチャー企業の社長が書いた話題の本が出た、という広告を見て私が図書館に予約したのは4月末のことでした。人気のある本はなかなか順番が回ってきません。その間に著者が女優の奥菜恵と離婚するという事件があり、やっと本が私の手許に届いた時にはマスコミの離婚騒動も一段落していました。
なんとなく時期外れになってしまいましたが、読んでみると、ベンチャー企業を立ち上げて軌道に乗せるまでの体験が読みやすい文章で語られています。作家になるのが夢のひとつだったという著者の力量が感じられたので、お薦めすることにしました。
東京に憧れて上京してきた著者は、ろくに大学にも行かずにマージャンに明け暮れたりバイトに励んだりしていました。どこにでもいる若者の一人だった著者が20歳のときに決めた夢は「21世紀を代表する会社をつくる」ということでした。
大学卒業後に入社したベンチャー企業では休みも取らず猛烈に働き、実績を上げます。計画通り1年後に会社(サイバーエージェント)を立ち上げ、ITバブルの拡大の波に乗って業績を伸ばした著者は、会社設立後わずか2年で東証マザーズに上場にさせました。
史上最年少の26歳の若さで上場を達成、と騒がれたのも束の間。ITバブルが崩壊し、インターネット関連の株価は容赦なく下げ続けます。マスコミは手のひらを返したように、厳しい論調に変わっていきました。
このままでは会社が買収されて自分の夢は消えてしまう、という絶望的な状況のなか、もがき苦しみながらバブルを乗り越えたところで本書は終わっています。
夢がつぶされようとしていた28歳の夏の終わり、自分の生き方が本当に正しかったのか、自分の望んでいた人生はこれだったのか……、と著者は自分に問いかけました。そのとき著者の脳裏に浮かんだのは、彼を信じて付いてきてくれた仲間たちの顔でした。大阪から電話一本で馳せ参じてくれた取締役の友人、大学院を中退して社員第一号になってくれた後輩、毎日寝る間も惜しんで働いてくれている社員たち。
おれに涙を流す資格なんてない。泣いているひまがあったら、なんとかしてこの危機を切り抜ける方法を考えろ! 著者は自分に言い聞かせました。
いっぽうで、ユーモラスな場面もありました。
会社が急成長する中で中途採用した社員の中には、会社の規模に合わない言動をする人もいます。ある法務担当者は、上場企業の社長なんだから、ボディガードをつけるべき、と主張します。また、法務的リスクを避けるために、これまでの女性関係・女性とのトラブルを全部話してもらいたい、とも言いました。恥ずかしい思いをしながら赤裸々に女性遍歴を告白しましたが、まもなくこの法務担当者は辞めてしまったそうです。
女優と結婚した社長、という先入観を持って読み始めましたので、自分が決めた目標に向かって、寝る間も惜しんで誰よりも必死にはたらく姿には驚きました。
学生時代に目をかけてくれたバイト先の上司を裏切り、親友をも裏切る経過を告白する箇所もあり、本書が単なる「タレント本」でないことを物語っています。
ところで、著者は、創業直後から会社のホームページに社長日記を書いており、今も「渋谷ではたらく社長のblog」を書き続けています。
図書館から本が届く前に私もこのブログを読みはじめました。最近の話題でおもしろかったのは、離婚報道の直前に、あの芸能レポーターの梨元氏の取材を受けたことです。梨元氏の質問をはぐらかした藤田氏は、こともあろうに梨元氏に藤田氏のブログサイトでブログを書き始めるよう説得してしまいました。
その梨元氏が、藤田氏の離婚報道後も律儀にブログを書き続けているのも笑えますが、すごいコメントの量と内容に「改めてネット社会の いろいろな凄さを感じました」とぼやいているのは噴飯ものですねぇ。
藤田氏の最近のブログに、「私の創業の経緯に関する取材は、我ながら飽きてしまった。本も書いたし。講演でも何度も話しているので、寝てても同じ話ができます」と書いていました。(8月18日)
本人は、もうこの話題から卒業したい、とのことですので、藤田氏に会う予定のある人は、まずこの本を読んでおきましょう。