2004年12月刊 著者:J.K.ガルブレイス 出版社:日本経済新聞社 価格:\1,575(税込) 179P
ガルブレイスは「ゆたかな社会」や「不確実性の時代」で知られるアメリカの経済学者。96歳になった今も執筆活動を続けており、この本の2ヶ月前にも「悪意なき欺瞞」が出版されたばかりです。
著者はカナダの農場に生まれ、苦学してカリフォルニア大学バークレー校卒業した後、長年ハーバード大学教授を務めました。経済学者の枠におさまらず、役人として第二次世界大戦中の物価統制を指揮した後、政治とも深いかかわりを持ち、大統領候補のスピーチライターやインド大使にも就任します。ジャーナリスト時代に文章も磨きました。
著者の文章を読んでいると率直で誠実な人柄のように感じますが、本書で自身が語るエピソードによると、ずいぶん嫌われ者だったようです。特に戦時物価統制を担当していた頃は製品価格を上げさせようとする企業経営者から憎悪されていて、あとあとまで「共産主義者」と罵られたようです。マッカーシー旋風が吹き荒れた米国のことです。こんな罵倒を受けると身の危険を感じたはずですが、本書では触れていません。
どんなに反発されても信念を貫く著者は、個性を尊重する米国でも傲慢に見えたのかもしれませんね。
本書にはケネディ大統領と朝食をとった時の会話が紹介されています。その日のニューヨークタイムズ紙に載った自分の記事の感想を聞かれ、「悪くないと思います。ただ、なぜ私のことを尊大と書くのはかはわかりませんが」と答えました。ケネディはすかさず、こう言ったそうです。「そうかね。だってみなそう言ってるいるよ」。
日本好き、という著者は、次のようなアドバイスも書いています。
日本には、人生の喜び、楽しみといった経済以外の側面をもっと重視する国になっていってほしいと思う。GNP(国民総生産)に向いすぎた関心を、GNE(グロス・ナショナル・エンジョイメント=楽しみ)にむけるべきだと考える。
多方面で活躍した著者のことですから、本格的自伝を書けば相当な分量になるでしょう。200ページ足らずの本書は駈け足で著者の足跡を辿っていますが、あまり細部に入らない分だけ気軽に読むことができました。