あなたなら、どうする


2004年4月刊  著者:大平 光代  出版社:講談社  価格:\1,155(税込)  255P


あなたなら、どうする


著者の大平光代さんは、極道の妻から弁護士になった経験を書いた「だから、あなたも生きぬいて」で知られています。「だから……」はベストセラーになりましたが、内容が重そうで私自身は敬遠して読んでいません。その後、大平さんが大阪市の助役になったというニュースもあり、ちょっと気になっていたので、本書を手に取ってみました。


本書は、弁護士として多くの少年犯罪を担当した著者の経験をふまえ、6種類の事件を紹介しながら、子どもたちに「事件を起こす前に考えなおす、踏みとどまる勇気を持ってほしい」と語りかける内容です。
著者が取り上げたのは、新聞に載らないような小さな事件ばかりです。
家出、売春、万引き、シンナー、覚醒剤援助交際、レイプ、ひったくり。強盗とか殺人という凶悪事件ではありませんから、小さいといえば小さな事件で、それだけにちょっとしたきっかけで手を出してしまう可能性があります。
著者は事件に至った子どもたちの「きっかけ」を重視しています。
メル友を頼りに家出して売春させられた女子高校生の話の後に、「顔も知らないメル友に会いに行って殺害されることもある」「文字だけじゃ真実はわからへんよ」と、メールの恐さを警告しています。
他の事件でも、親とケンカしたとか、学校がおもしろくないとか、遊ぶ金がないとか、誰もが経験しそうなきっかけを例に挙げ、こんなことで犯罪への一歩を踏み出してはいけない、と著者は訴えます。
6つの事件の後に、著者が本書を書いた動機を語っています。
「(あなたのことを)私が見てる。私が分ってる。私がいつでもそばに居る」
子どもの頃、著者が一番欲しかったことばを、今非行に走っている子どもたちに言いたい。それが弁護士を志望した一番の理由、と。


本書を読んで、 私は学生時代の二人の友人を思い出しました。
一人は、友達に誘われて万引きをしてしまったという経験をしていました。「今なら『万引きに誘うようなヤツは本当の友達じゃない』と言えるけど、その時は、友達を失うのが恐かったんだ」という辛い体験を話してくれました。
もう一人は、小学校の頃、近くの工事現場に捨ててあるコカコーラのビンを拾ってきて、酒屋さんでお金に代えてもらうことを繰り返していました。捨ててあるのだから構わないようなものですが、彼は「これは人のものなんだ。悪いことなんだ」と自覚しながらビンを集めました。
当時は両親とも蒸発していて、そんな小さな金額でも、どうしてもお金が欲しかった。と一部始終を話す彼の目には涙が浮かんでいました。思い出すたびに辛さがよみがえるのでしょう。


返す言葉がない、とは、こういうことを言うのでしょうか。


幸い私の周囲に悪い友達はいなかったし、両親が居なくなるような経験もしませんでした。
でも、世の中には、いろんな人間関係があり、一つひとつ異なった親子の葛藤がある、ということを二人は教えてくれました。
せめて自分の周囲には、「分ってるよ。私がいつでもそばに居るよ」という信号を送ることができるような人間になりたい。と心に誓ったことを思い出します。


あれから四半世紀たちました。
あの日の決意を忘れていないか? と考えさせる本でした。


どんなすばらしい内容でも、子どもたちが読んでくれなければ著者のメッセージは届きません。子どもたちに語りかける内容の本はたくさんありますが、この本の画期的なところは、マンガで描かれている、ということです。
私のような「いい大人」にも、人を信じることの大切さを教えてくれます。マンガとバカにせずに、一読してみてはいかがでしょうか。