原稿用紙10枚を書く力


2004年10月刊  著者:斎藤 孝  出版社:大和書房  価格:\1,260(税込)  196P


原稿用紙10枚を書く力


清水義範の『大人のための文章教室』を先日紹介しましたが、また文章読本を読んでしまいました。やっぱり、こういう本は気になりますねぇ。


何しろ、著者があの齋藤孝センセですから、「書くことはスポーツだ」というプロローグから体育会系の文章読本であることを宣言しています。スポーツには練習はつきものです。原稿用紙10枚を書く練習をすれば、どんなに長い文章も恐くない、というのが本書のキーコンセプトのようです。(文章を書く前にキーコンセプトを決めよ、というのも本書に書かれています)


長い文章を書く場合は先にレジュメを書け、という著者だけあって、本書の目次自体が詳細なレジュメになっています。197ページのうちなんと7ページも目次に割いています。
小見出しのページ番号を見ると、だいたい2ページから3ページで1項目です。たしかに、こういう書き方をすれば、目次を最初に作って後は書きたいところから順に1項目2ページづつくらい書いていけば、長い文章も書けそうな気がします。
でも、齋藤センセは目次をレジュメに使っているだけではありません。読む人の興味をそそる目的にも使っています。
たとえば、「考え抜く力をどうつけるか」、という目次を見て「何か、思考力を高める方法が書いてあるのだろう」と期待してページを開いてみると、ここには具体的方法は書いてありません。考え抜く力=思考の粘り強さも「書くこと」で身につけられる、とあるだけです。これでは「考え抜く力をどうつけるか」ではなく「書くことで考える力も養える」が正しい見出しと思いますが、この見出しでは読み飛ばされる恐れがあるのでしょう。興味をそそる方に変えてしまったようです。でも羊頭狗肉を続けていると、オオカミ少年になってしまいますよ、齋藤センセ。


私が一番感心したのは、ワープロ時代の書き方は、書けるところからどんどん打ち込んでいって後で整理するのが効率的、という箇所でした。
私も紙とエンピツで書いていた頃の習慣をひきずっているので、文章を書きながら推敲するような書き方、少し書いては読みなおして修正するという書き方をしてしまいます。でも、一字一句にこだわっていては、文章の流れに勢いが出ませんし、第一、息切れしてしまいます。これからは、本書を参考にして大いに書き殴ろう、書いた後で推敲すればいい、という書き方をするようにしたいと思いました。


また、「読書」というと「味わう」ことが強調され、読み始めた本は最後まで読み終わらなくてはいけないといわれてきた、という指摘にはドキッとしました。確かに小説を読みなれていると、そういう傾向があります。しかし著者は「私は極端にいえば、本は(中略)全部読む必要はないと思っている」という“味わう”派が目くじらをたてそうな宣言をしています。書くための素材を集めるための効率的な方法として、自分が必要そうなところだけ抜き読みするわけです。急に速読できるようになりませんから、制限時間の中では次善の策といえるでしょう。


さて、文章読本にとって「味わいのある文章、名文を書く方法」を示す章というのは鬼門です。そんな方法が転がっているはずもなく、そのノウハウを読者に簡単に伝授するのは至難の業なのです。ついつい、名文を引用して、「人格が滲み出るのだから人格をみがくべき」のようなお説教になってしまうことが多いもの。
さて、齋藤センセはどうでしょうか。
文章の生命力、構築力、立ち位置など、齋藤メソッドらしい独自の視点は示しているものの、やはり「名文」を引用しているあたりは、この重大問題にがっぷりと取り組むのではなく、お茶を濁した印象を受けますねぇ。ちょっと残念。


ともかく、齋藤センセらしい文章読本でした。目次だけでも一読あれ。