図で考えれば文章がうまくなる
著者:久恒 啓一 出版社:PHP文庫 2008年6月刊 \500(税込) 212P
本日紹介する一冊は、久しぶりに取り上げた文章の書き方に関する本です。
私は文章の書き方に関する本――文章読本が大好きで、次のような本を読んできました。
- 本多勝一『日本語の作文技術』
- 山口文憲『読ませる技術―コラム-エッセイの王道』
- 清水義範『大人のための文章教室』
- 斎藤孝『原稿用紙10枚を書く力』
- 三田誠広『こころに効く小説の書き方』
- 轡田隆史『うまい!と言われる文章の技術』
- 永江朗『〈不良〉のための文章術』
- 福島哲史『「書く力」が仕事力を高める!』
- 林望『リンボウ先生の文章術教室』
- 日垣隆『すぐに稼げる文章術』
- 松島義一『本気で書きたい人の小説「超」入門』
- 福田和也『福田和也の「文章教室」』
- 樋口裕一『文章力が面白いほど身につく本』
みなさん多くの著作をお持ちの方ばかりで、自身の経験を元にいろいろなアドバイスをしてくれます。一冊読めば必ず参考になることがあり、すこしずつ自分の文章に活かしてきました。
そんな「文章読本」マニアの私にとって、本書の主題は衝撃でした。図を書いてから文章を書く、という文章術はまさに「目からウロコ」です。
著者の久恒さんは、『図で考える人は仕事ができる』などの著作で有名な“図解”の第一人者です。
図を使って物事を考える方法を学生に教えるなか、久恒さんは必ず「図を使って文章を書かせる」という時間をつくっています。
この講義への学生たちの反響は大きく、
「生まれて初めて文章を書くのが楽しかった」
「自分でも信じられないくらい、すらすらとペンを走らせることができた」
と言ってくれるそうです。
なぜ学生たちにそんなに強い印象が残るのか。
それは、それまで学生たちが知らずに知らずに無理をしていた文章作成方法を、無理のないやり方に変えさせたからです。
文章を書くときには、「文章の内容を考える」という行為と、「実際に文章を書いてみる」という作業を同時に行っています。久恒さんの考えでは、「文章は考えるための道具としては弱い」という性質を持っています。
ですから、「文章を書きながら文章の内容を考える」という行為を行おうとせずに、実際に文章を書くのは後回しにして、まず内容をしっかり練るべきなのです。
そこで登場するのが「考える道具」としての図解です。
先に図を使って考えをまとめ、そのあと図の流れにしたがって文章にすることによって、革命ともいうべきことが起きた! ……と、久恒さんはこの手法を「図解文章法」と命名しました。
具体的な「図解文章法」の図の書き方、図から文章を起こす方法は本書をお読みいただくとして、この久恒流文章術で私が共鳴した箇所をひとつ紹介させていただきます。
それは接続詞の重要性です。
久恒さんは、次のように指摘しています。
文章を書く場合には、主語や述語などより接続詞のほうが大きな
役割を持っていると思います。前後をつなぐという意味の接続詞
というより、むしろ前後の関係を示す言葉ですから、「関係詞」
といったほうが適切でしょう。
私が文章を書くときに一番注意しているのは、「すらすら読める表現に勉める。途中でつっかからないように気をつける」ということです。
具体的には、前の文章で予想できる内容の文章を続けるようにしています。どうしても流れを変えるときだけ、「しかし」「話は変わりますが」などの強い接続語を用いますが、それ以外は文章が自然に流れていくようにするのです。
図解で考え方を整理しておけば、次の文章へどのように接続されるかを明らかにできますので、ここは「図解文章法」の本領を発揮する絶好のチャンスでしょう。
なるほど、なるほど。
本書には、文章を書く前に作った図解と、図解を元に書いた文章の例がたくさん登場しますので、この手法のイメージが湧きますし、勘どころをつかむこともできるでしょう。
私として気になったのは、図解で決めた文章の内容を、書いているうちにどれだけふくらますことができるか、ということです。設計図通りの文章というのは大切ですが、図解にしばられた文章には魅力が少ないような気がしたのです。
そんな目で見ていて、図解にしばられない完成文をひとつ見つけました。「上司のマネジメント力」をテーマにした文例です。
図では「コミュニケーションをとる」という大項目に、「仕事には厳しく」と「夕方には飲みに行く」という小項目が書いてあります。
このまま文章を書けば、「上司のマネジメント力の要素としてコミュニケーション力は欠かせない。そのために仕事に厳しい姿勢が求められると同時に夕方には部下と一緒に飲みにいく必要もある」という論旨の文章ができるでしょう。
しかし、実際の例文は違いました。
コミュニケーションで大切なのは、仕事と別のコミニュケーションルートをつくること。上司と飲みに行かない若者が増えているので、飲みに行かなくても「声かけ」を心がけべき。というものです。
「飲みに行く」よりも、むしろ「仕事と別のコミニュケーションルート」を強調した内容になっていました。
ははーん。
久恒さんはあえて解説していませんが、書いているうちに話の内容がちょっとずつ変わることもあるんですね。
なっとく、なっとく。