少年たちの記憶 中国からの引揚げ


著者:中国引揚げ漫画家の会/編  出版社:ミナトレナトス  2002年6月刊  \8,400(税込)  213P


少年たちの記憶―中国からの引揚げ    ご購入は、こちらから


今日は、我が家の本棚で一番高額な本を取りあげる。


この本を買ったのは、もう10年以上前のこと。
日本テレビ朝の情報番組「ズームイン」で、中国からの引揚げ経験を持つ漫画家たちが画集を出版した、というトピックスを紹介していた。
赤塚不二夫ちばてつや北見けんいち森田拳次ほか、10名以上の漫画家が中国で暮らしていたころの想い出、引揚げの様子などを描いたという。


8,400円という値段にもかかわらず、カミさんと僕は、「この本、買おう!」と決めた。それが、2002年6月に刊行された『少年たちの記憶 中国からの引揚げ』だ。


僕もカミさんも、親類に中国からの引き揚げ者がいるわけではないし、中国人の友人がいるわけでもないが、なんとなく中国に親近感があった。


香港・広州・桂林ツアーを新婚旅行先に選んだのも「なんとなく親近感」があったからだし、いつになるか分からないが、紫禁城敦煌に行って、悠久の歴史を感じてみたい、とも思っている。


その中国と日本が戦争をしていた、ということは忘れてはならないし、語り継いでいかなければならない問題だ。
しかし、“反戦”を表に出した書籍は、戦闘場面や殺戮場面がナマナマしすぎたり、イデオロギーが前面に出すぎていたりして、なかなか本棚に置いておきたいような本に出会えない。


この本は違う。きっと違う。
「ズームイン」を見たあと、すぐ近所の書店で申し込んで2週間待った。


届いた本は、色紙より少し大きめの画集だった。


  中国に暮らしていたボクら
  暮らしの中の戦争
  敗戦 8月15日からの暮らし
  引揚げの旅がはじまった
  海を渡って日本へ


それぞれのテーマで漫画家たちが記憶をたどりながら当時の暮らし、引揚げの様子を描いている。

引揚げ時に6歳から10歳前後だった漫画家たちにとって、中国の暮らしは望郷の念と結びついている。子ども時代のことを思い出すノスタルジーに、簡単に訪れることができないという、二重の「もう戻れない」という感慨が加わる。


同じ経験をしたわけでもないのに、画集を見ていると、なんだか遠い日の懐かしい記憶のように思えてくる。


巻末の「この画集ができるまで」で、石子順氏は次のように書いている。

満州”中国からの引揚げ体験を、忘れかけていることを記憶でよびもどし、絵に描いていこう、引揚げなどをまったく知らない子どもたちに伝えていこう、二度とああいうことをくり返さないという思いをこめて描こう、いまやっておかないと引揚げ体験は永久に消えていくおそれがあるということで、私が聞き書きしたものや、自分で書いたものに、絵を五点ずつ入れてこの本は出版されました。


これだけの高額書籍になると、そうそう売れるものではないらしい。Amazonで購入できるのは中古8点だけなので、興味のある方は、お早めにどうぞ。

ぼくらが出合った戦争 漫画家の中国引揚げ行

著者:石子順 ちばてつや 森田拳次  出版社:新日本出版社  2012年8月刊  \1,575(税込)  195P


ぼくらが出合った戦争―漫画家の中国引揚げ行    ご購入は、こちらから


『ぼくらが出合った戦争』は、『少年たちの記憶』の一種の“縮刷版”であり、続編でもある。


『少年たちの記憶』の出版のあと、2010年5月から「漫画展〜中国からの引揚げ〜少年たちの記憶」という巡回展示が行われた。
全国50箇所で開かれた展示会をきっかけに、もう一度、「引揚げ」を語り継いでいくために、『ぼくらが出合った戦争』が出版された。


なぜ子どもたちが中国にいたのか、どのように引揚げがはじまったかを解説し、引揚げ漫画家たちが集まり、画集を出した経緯等を紹介している。


『少年たちの記憶』を出版して10年の間に、赤塚不二夫が亡くなった。他の漫画家たちもそれぞれ年齢が10歳増えたわけで、体験者自身が後世に伝えていく最後のチャンスになるのかもしれない。

東京の大井町で開催された漫画展の期間中、ちばてつや氏と石子順氏、森田拳次氏と石子順氏の対談が行われ、来場者を感動させた。本書には、この対談の内容も収録されており、生々しい体験を読むことができる。


戦争体験を語り継ぐこととは別に、僕が興味深く感じたのは、どうしてこの人たちが漫画家になったのか、という問いだ。


引揚げの旅の中で、生活がどんなに貧しくなっても、父や母はおおらかさを失わなかった。それがみんなの中に入っていったと思う、と上田トシコが言った。


赤塚不二夫は、次のように言ったそうだ。

中国人が「メーファーズ(没法子)」というんだよ。「しょうがない」という意味。
仕方ないということで、おれたち中国育ちは少しずつそれを持っているんじゃないか。


裸一貫で引揚げてきて、日本に戻ってからもそれぞれ苦労をした。北見けんいちのように、長い下積み生活を送った人もいる。


苦しくったって仕方ないじゃないか。
もう失うものがないんだから、クヨクヨすることはない、という強さが戦後の彼らを支えたのだ。


巡回展示がきっかけで生まれた本なので、巻頭のカラーページで『少年たちの記憶』にも載っている代表的な絵を9ページだけ掲載している。
『少年たちの記憶』に手が届かない方は(笑)、まず『ぼくらが出合った戦争』を手に取ることをお勧めする。