毎日かあさん2 お入学編


2005年3月刊  著者:西原 理恵子  出版社:毎日新聞社   \880(税込)  77P


毎日かあさん2 お入学編


毎日新聞の連載をまとめた、著者の子育てシリーズ第2弾です。第1弾の『毎日かあさん カニ母編』( 2004年11月4日のブログ参照)では、目をつりあげて殺伐とした光線を発しながら子育てに奮闘していました。第2弾でも絶好調です。


著者には腕白ざかりの息子と、ふだんはいい子なのに……という娘がいます。『お入学編』で著者の息子(おにいちゃん)が小学校に入学しました。
石坂啓の子育てマンガでも息子の腕白ぶりが描かれていましたが、西原の息子はレベルが違います。大雨の日に心配して学校にむかえにいくと、雨に打たれながら鉄棒に齧りついている。以前「血の味と雨にぬれた鉄棒が同じ味」と教わったので試していた、とのこと。しかも、大雨なのに傘を学校に忘れている。
また、どこから聞いてきたのか、「トイレをすごくガマンしたら忍者になれる」という話を信じて、トイレをガマンする修行を実践。でも、ガマンしすぎておしっこをもらす。ウンチももらす。著者はそんな息子に忍者のお告げを教えます。「真の忍者は、トイレに座ってからガマンできる」
しかし、息子が試してみると、座るとすぐに出てしまいます。「おかあさん、全然ガマンできないよう、だめだよー」という息子に、「そりゃあ残念だったねえー(しめしめと)」という母。こりゃ、マンガのネタに困ることはありませんねぇ。


著者は、『カニ母編』の途中で離婚してしまいました。著者が対談集『女神の欲望』(2005年7月5日のブログ参照)にゲスト出演したとき、離婚のいきさつを語っています。離婚の原因は亭主のアルコール中毒で、「家族として一緒に酒と闘えなかったこと、支えきれなかったことは反省している」とのこと。
本書『お入学編』にも元夫がよく登場します。離婚後も家族ぐるみで休日をいっしょに過ごしたり、元夫が入院すればお見舞いに行ったりもしているのです。
酒で3回目の大量吐血した直後にお見舞いに行った時、「もう酒やめた! 最初の2日間が苦しかったがもう大丈夫」という夫に、「たった2日我慢すりゃどうにかなる事を、20年できんかったのか、お前は!」と目を吊り上げて怒鳴っていました。でも、子どもたちに「おとしぁんはねー、まいごなんだよー。おとなでもまいごになるんだよー」と教えていました。この親子はどうなっていくんでしょうか。


学校のことで気になった話がひとつ。
ある日、著者は学校から呼び出しの電話を受けます。また息子が何かしでかしたのか、と緊張して学校に行くと、著者のマンガについて話しがあるとのこと。「あまり学校のことは……」という教師に向かって、著者は「作品の御意見御感想は編集部にどうぞ」「まんが読んで、まんが家呼び出すなー」と怒鳴ります。
確かに、読者が作家を呼び出すなんてことは普通の職業ではできません。学校の先生というのは、親を呼び出すことを何とも思わなくなっているのですね。子どもを人質に取られているので普通の親は文句いいませんが、著者は違います。自身が高校を退学になったとき、退学理由に納得がいかなかったので、裁判所に訴えて何年も学校と大ゲンカした実績がありますから。
ホントに最近の教師は何かんがえているんですかね! 我が子の小学校入学が心配です。


ところで、著者は『上京ものがたり』という作品で2005年度の手塚治虫文化賞を受賞しました。受賞のあいさつで、「毎日新聞に『毎日かあさん』を連載していて、小学館から賞をもらうとは思わなかった」と笑いを取っていた著者ですが、その手塚治虫文化賞受賞記念作品が載っているというので、ビッグコミックスペリオールの8月12日号を買いました。(余談ですが、どうして雑誌というのは、発売日よりずいぶん先の日付けを発刊日にするんでしょうかね!?)


「うつくしい のはら」という題名の短編マンガです。
主人公は貧しい国の貧しい女の子。字をおぼえたら世の中がわかる、商売ができる、家族がいっしょにいられる、と教えてくれるシスターの元へ、毎日勉強しに通っています。
ある日、野原で遊んでいて、海の向こうから来た兵士の死体を見つけました。死んだ兵士にむかって心の中で「なんでこんなことしてるの?」と話しかけると、「家族を食べさせたかった」と教えてくれました。
その後、少女はおとなになりましたが、食料の配給を受けるような貧しい生活から抜け出せずにいました。あの時の兵隊さんが私のおなかに降ってきた、と信じている小さな息子を育てています。彼女は息子に「字をならいなさい。そうしたら世の中のことがわかる、家族をたべさせていける」と教えます。
ある日、息子が学校から帰ってくると、家が爆撃されてお母さんが死んでいました。死んだお母さんは「おかえり。今日はどんな字を習ってきたの」と話しかけてきました。息子が「うつくしいのはら」と無邪気に答えると、「あなたの家族をおなかいっぱい食べさせるために、一つでも多くの言葉をおぼえなさい」とお母さんは言い遺しました。
やがて息子は兵士になり、戦場の野原で撃たれて死んでしまいました。死んだ兵士が「もっと字をおぼえたかったな」とつぶやいていると、主人公の少女が草をかきわけて登場し、最初の場面に戻りました。
「ねえおかあさん。ぼくたちは、いつになったら字をおぼえて、商売をして人にものをもらわずに生きていけるの?」と兵士は少女に話しかけ、はじめて涙を流しました。少女は答えます。「わからない。それは誰にもわからないの。でも、次にうまれて人になるために、一つでも多くの言葉をおぼえましょう」
少女―「うつくしいのはら」
兵士―「うつくしいのはら」
少女―「あおいそらとそらまめ」
兵士―「あおいそらとそらまめ」
少女―「あいしてる」
兵士―「あいしてる」


子育てに追われ、目をつりあげた姿の多い『毎日かあさん2 お入学編』にも、「アジアのこどもたち」というページがあります。著者が貧しい国の子どもたちに向けるまなざしは、優しさと哀しさに満ちています。
ますます西原から目がはなせなくなりました。