副題:ぐるぐるマニ車編
著者:西原理恵子 出版社:毎日新聞社 2011年1月刊 \880(税込) 78P
西原理恵子(さいばらりえこ、以下サイバラと略称する)は、毒の強い作風で知られる漫画家である。
子どものころからお金の苦労を味わっていて、武蔵野美術大学に入学したあとなんとか絵で食っていくために、他の美大生なら絶対に手をつけないエロ本のカットから書きはじめた。
エロ本以外の漫画を描かせてもらえるようになってからも、ちょっとやそっとでカネの執着は消えない。
2005年に第9回手塚治虫文化賞短編賞を受賞したときも、浦沢直樹氏との対談で、「あたしだってもしもの時の保険に、エロ本のカットまだやってるよ!」と言っていたくらいだ。
テレビアニメで「毎日かあさん」を放映するようになってからは、ずいぶんメジャーになった気もするのだが、「ちびまる子ちゃん」みたいなポジションを手にしたい、とハングリー精神を公言したりしている。
戦場カメラマンと結婚して2人の子どもを産んだあと、夫のアルコール中毒が原因で離婚。
元夫がアルコール中毒を完治させて戻ってくるという奇跡も経験したが、すぐに夫は亡き人になってしまい、現在は母ひとり子ども2人の子育ての最中である。
6月13日このブログでサイバラと佐野洋子氏の対談を収録した『佐野洋子対談集』を取りあげたほか、サイバラの本は他にも何度も取りあげているが、『毎日母さん』シリーズは、6年前に『毎日かあさん2 お入学編』を紹介してからごぶさたである。
相変わらずうまヘタ絵で毒の強いサイバラ作品を見てみよう。
「お入学編」の前、『毎日かあさん カニ母編』の途中でサイバラは離婚してしまったのだが、その後もよく元夫(鴨ちゃん)が登場する。「お入学編」でも目を吊り上げてアル中の鴨ちゃんを怒鳴る姿を見せたかと思えば、子どもたちに
「おとしぁんはねー、まいごなんだよー。おとなでもまいごになるんだよー」
と語りかける優しい母の一面も見せていた。
今回は、もう7巻になるので、カモちゃんはとっくに亡くなっている。だが、鴨ちゃんの遺影が登場したり、鴨ちゃんの最後の入院の回想シーンが登場したり、まだまだ家族の一員として元夫は存在感を示している。
小さかった子どもたちも、ずいぶん大きくなり、息子は小学校の卒業を目前にしている。
「学校って一番近所のフツーのとこに通えばいいんじゃない?」とサイバラは油断していたのだが、近所の公立高校はレベルが高く、中学3年間塾通いしても、なかなか合格できないらしい。
仕方なく、近所の中高一貫私立校を受けることにした時には、受験まであと100日を切っていたという。
初めて塾に通わせてみたら、小学5年の算数ドリルからスタートだった。「100日切りで小五からスタート」という大きなト書きが、サイバラの動揺を示している。
受験ネタは3ページで終わり、息子はともかく「どうにか桜咲く」という結末を迎えたのだった。
昨日まで冬だったのに、朝起きたら花の香りがして急に春がやってきた日、息子は小学校の卒業式を迎える。
そういえば、夫の鴨ちゃんが亡くなって家に帰ってきた日が、ちょうどこんな日だった、と思い出しながらサイバラも卒業式に参列。サイバラの心にうかんだのは、「あーあ、大きくなっちゃった」という思いだった。
――わかる。わかるなぁー。
人より遅く子どもを授かったせいか、僕も小学4年の娘と接しながら、同じような感慨を覚えることがある。
僕の場合は、「いつまで、『ねぇー、パパー』と話かけてくれるかなぁ……」と、まだ来てもいない反抗期を覚悟したりもする。
子どもはどんどん大きくなる。
はじめて立った時あんなにかわいかった子どもが、どんどん成長していく。
順調に育っていくのはもちろん嬉しいのだが、いつも自分の側にいた子どもが、少しずつ手のとどかないところへ行こうとしているのが、少しだけ寂しい。
娘と公園にでかけた一日を描いたあと、サイバラはつぶやく。
あと何回子供と公園にこられるんだろう。
一日のおわりかけに、すごく大切な時間だったことに気付く。
いつも子育てに追われている人に、しあわせは「今」という時の中にあることを実感させてくれる。
うまヘタ絵なのに。ズルいぞ! サイバラ!