ローマ人の物語14


副題:キリストの勝利
2005年12月刊  著者:塩野 七生  出版社:新潮社  価格:\2,730(税込)  306P


ローマ人の物語 (14) キリストの勝利


イタリア在住の塩野七生氏が毎年1巻ずつ書き上げているシリーズの第14巻です。
ローマ帝国の勃興期から書き起こした本シリーズはローマ滅亡で終わることになっており、いよいよ、次の15巻でローマ帝国の滅亡を迎えます。


ローマの衰退は目をおおうばかりとなり、本書では、最後を迎える直前の紀元4世紀中半から後半が描かれています。
コンスタンティヌス帝は、3人の息子と親族にローマ帝国の分割統治を命じましたが、息子のコンスタンティウスは親族2人を謀殺します。同じ母親の血を引く3人ならうまく協力していけると思ったのもつかの間、他の2人の兄弟が蛮族との戦闘や部下の謀反で殺されてしまいました。
仕方なく、親族の謀殺から生き残った二人の従兄弟を順次共同統治者として任命します。猜疑心の強いコンスタンティウスが謀反の疑いでガルスを殺し、際限のない謀殺の矛先をユリアヌスに向けたとき、ついに命が尽きました。
歴史上「背教者」と呼ばれたユリアヌスが、少しだけローマ帝国衰退を押しとどめようとしましたが、2年足らずで戦死。その後の2人の皇帝も、北方民族の侵入を押しとどめられず、とうとうテオドシウス帝の死後、2子によって帝国は東西に2分されました。


あらすじにすれば、わずかな行数で説明できるこの期間を、著者の塩野氏は克明に記録していきます。


本書では、軍事・政治上の出来事と平行して、副題ともなっているキリスト教の勝利が語られています。
著者は、自らを「不信心者」と称しており、キリスト教が皇帝という政治権力よりも力を持つようになった“世俗化”に否定的意見を持っています。
まして、ギリシア・ローマの「異教」を打ち破った三位一体勢力(現在のカトリック)が、内部の「異端」を迫害するようになったことを、
  キリスト教徒でいながら同じキリスト教からの迫害を受け、
  悪ければ殉教するという現象の始まりであった。
と述べていました。


ローマ帝国の滅亡と共に、暗黒の中世が始まることを予感させる14巻でした。


さて、本書の中でも言及していますが、ユリアヌスは辻邦夫の『背教者ユリアヌス』で知られる悲劇の皇帝です。


ローマ帝国を立て直そうと努力したユリアヌスは、ギリシアやローマの神々の祭礼を復活させ、キリスト教の国教化を止めようとしました。しかし、軍団兵士の中にも多数のキリスト教徒がいましたから、兵士や官僚の中にも不満がたまっていったようです。
身の回りの世話をする家来が体を守る防具(胸甲)を渡してくれないまま、敵の来襲で時間のない皇帝は無防備な身体ひとつで出陣しなければなりませんでした。
戦場で飛んで来た槍がユリアヌスの腹部深く刺さり、その槍にはローマ軍の刻印があった、という噂まで流れたということです。


本書を読んで、ローマ帝国復興の努力が報われることもなく死を迎え、没後には「背教者」とまで蔑称された悲劇の皇帝に興味を引かれました。さっそく、文庫本で3巻もあるこの大著を、本棚から取り出してみました。
学生時代にラジオドラマで『背教者ユリアヌス』を知り、一生懸命読み通したものですが、すっかり内容も忘れています。


四半世紀ぶりに読み返してみようかなぁ。
でも、暗いし、重たそうな内容だなぁ……。


【参考】
 『ローマ人の物語13―最後の努力』の内容は、2005年1月19日のブログを参照ください。