暇と退屈の倫理学


著者:國分 功一郎  出版社:太田出版  2015年3月刊  \1,296(税込)  437P


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前回からのつづき)

浅沼ヒロシの「結論」


「暇と退屈の倫理学」の結論を理解するには、この本をはじめからきちんと読まなければならない、と國分氏は言っていた。
「結論だけを読んだ読者は間違いなく幻滅するであろう」と念押しされては結論を紹介するわけにいかない。


國分氏の結論を紹介できない代わりに、ぼくがこの本を読んで考えたことや読んで良かったと思ったことを書くことにした。
國分氏の本を読んだ人は必ずこういう考え方に導かれる、というわけではなく、あくまで個人の感想であることをおことわりしておく。


ぼくがこの本を手にしたのは、長年かかえている「人生に飽きない」というテーマを考えるきっかけになるかもしれない、と思ったからだ。


積極的に幸福をめざす人の目標が「充実した人生」「自己実現」「リア充」だとすると、裏返しのテーマは不幸に陥らないようにすることであり、充実していない時間(=暇と退屈)を避けること、退屈して人生に飽きてしまわないこと、である。


中学3年で人生の岐路に立たされたとき、ぼくは家業の酪農を継いでいる自分の未来を想像し、いつか飽きてしまうことを危惧した。
乳牛という生き物を相手にする仕事には、1年365日休みがない。ぼくは、肉体的にも精神的にもアスリートのような生活を何十年も続ける自信が持てなかった。


農業高校へ進むかわりに普通高校を選び、大学で情報工学科を選び、就職でコンピュータSEを選んだ結果、仕事で「飽きる」という場面に出会うことはほとんどなかった。
そりのあわない上司にあたってしまったときに何もやることがなかった時期があったが、それ以外は新しいプロジェクトで何か新しいことに出会うので、退屈しなかった。


ところが、このところ「好奇心が弱くなってるんじゃない?」と感じるようになった。


本屋さんで2時間棚をめぐっても読みたい本が見つからない。
買ったときはおもしろそうだと思ったのに、読んでいるうちにつまらなくなってしまう。
通勤電車で本を読んでいるうちに疲れて読めなくなったり、眠ってしまったりする……。


こんなことじゃ、このさき人生に飽きてしまうぞ!


漠然とした不安を抱えていたとき、『暇と退屈の倫理学』に出会った。
書かれている内容は、決して納得できることばかりではなかった。むしろ「ちょっと違うんじゃないの?」と突っこみを入れながら読むことのほうが多かった。


それでも、この本のおかげで良いことがたくさんあった。


一つ目は、難しそうなことを延々と書いている著者につきあい通したおかげで、「難しそうなこと」に免疫ができて他の本が易しい内容に見えるようになったこと。


二つ目は、「読みながら感想を書く」という“読書日記”スタイルを試すことができたこと。


三つ目は、いつもよりたくさん原稿を書いたおかげで、文章を書く勢いがついたこと。


この本を読んでいろいろなことを考えたぼくの「結論」は、
  「人生に飽きないためには、元気な好奇心が必要だ」
ということだ。


えっ! それだけ?
当たりまえじゃないの? と言わないでほしい。


「結論だけを読んだ読者は間違いなく幻滅するであろう」と國分氏も書いているとおり、人生に大切なことはシンプルで当たりまえなのだ。


どうしても好奇心がおとろえた場合にどうしたらよいか、という難しい問題は、またそのときに考えることにする。


元気な好奇心を保つにはどうしたらよいか、という課題は、これからも日々かんがえていこうと思う。


(おわり)