キャパの十字架(その8)

(承前)


以上、長々とキャパと沢木耕太郎についての前置きを書かせてもらった。
いよいよ、本書の紹介をはじめることにする。


本書の題名『キャパの十字架』の「十字架」とは、キャパの出世作「崩れ落ちる兵士」の真贋疑惑を指している。


沢木が翻訳した『ロバート・キャパ』の原書には、「崩れ落ちる兵士」の写真が最初に掲載された雑誌のオリジナルな姿が載っていた。1936年9月23日発行のフランスの雑誌「ヴュ」を見ると、「崩れ落ちる兵士」の写真のすぐ下に、さらに激しいたおれ方をしている別の写真が載っていたことが分かる。


一見すると、上の写真で撃たれてしまった兵士が、下の写真で倒れこんでしまったように見える。だが、よく見ると2枚の写真に写っている兵士は服装も装備もことなっていて、別人であることがわかる。
そもそも、ほとんどのカメラに連射装置など着いていない1936年当時、このような連続写真を撮ることは不可能なのだ。


では、ほとんど同じ場所に2人の兵士が倒れこんだとしたら、先に倒れた兵士がもう一枚の写真に写っていないのはなぜなのか。もしかすると、この写真は兵士たちにポーズを取らせた写真ではないのか。


(その9へ続く)