希望の仕事術


著者:橘川 幸夫  出版社:バジリコ  2010年1月刊  \1,260(税込)  174P


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承前
本の内容に入る前に、橘川さんのスゴイところを示すエピソードを2つ披露したい。

橘川幸夫のスゴイところ―その1


橘川さんが「リアル・テキスト塾」という私塾を開催していて、近く新規生を募集することを2004年の年末に橘川さんのメルマガで知った。作家が主宰するのだから、文章講座に違いない。作家志望でもない僕には不似合いだが、橘川さんとはどんな人なのか、直接会って確かめてみたい。そう思って応募した。


「リアル・テキスト塾」は、不思議な塾だ。最初の1回だけは、課題作文の回答案を塾長(橘川さん)が添削してくれたが、2回目から添削してもらえなくなった。チームで雑誌企画案を練ったり、古典を現代風にリメイクしたり。文章修行らしき課題も出されるのだが、それは刺身のツマのようなもの。講座のメインは橘川さんが独自の切り口で日本の社会構造を読み解いて解説してくれる塾長講話だった。


橘川さんの話は、スケールがでかい。
  「日本とはこういうものだ」
  「世界はこう動いているのだ」
  「だいたい文明というものはなあ……」
なんて話を、浴びるように聞いた。この塾、たしか文章塾ではなかったのかな(笑)、と不思議に思いながら。


6回の講義を受講したあと、卒業作品として原稿用紙20枚の小説を提出。橘川さんの人となりはよく分ったが、「スゴイ!」と思わず唸るエピソードに出会ったのは、卒業してからだ。


それは、卒業後3年半経ったとき。
卒業生もたまには覗きに来ていいぞ、というお誘いを受けて、リアルテキスト塾の後輩の講義に参加したときのことだった。


橘川さんの塾長講話には名前がつけられていた。「本質を語る」という名前のコーナーで橘川さんが語ってくれた話を要約すると、次のようになる。

「自分」というのは、個人が意識する部分と、全ての生物や祖先から受け継ぎ、つながっている部分から成っている。
何か行動するときも、個人の考えで行動しているように見えるかもしれないが、実は全人類、全生物の思いを背負って行動しているのだ。
――と、俺は10代の終わりに考え、俺の世界観の根っこにすることにした。

自分とは誰かの可能性の一つであり、他人とは自分の可能性の一つだ、ということも考えた。


僕も、同じような考え方を知識として知ってはいた。ひとつは、ユング集合的無意識論。もうひとつは、仏教の唯識学派が教える九識論だ。


人間の意識を9段階に掘り下げたうち、8番目(第八識)にはあらゆる善悪の行為(業)の影響力が蓄えられている。自身の行為だけでなく、自然的・社会的環境から影響を受けたことがすべて蓄えられている、という教えだ。


知識として耳にはしていたが、すぐに自分の世界観として腑に落ちたわけではない。知識として知ることと、心から納得したり実感したりするのは別問題なのだ。


それを10代の終わりに自分で考えて発見した。頭でというより、体含めた、存在として体感してしまった、というのだから、橘川青年はどれだけ世の中のことを達観していたのだろうか。


なんだか、近寄りがたく感じてしまったことを思い出す。


(2月6日へつづく)

リアルテキスト塾の11期生募集中


僕は3期生だったのだが、いま11期生を募集しているそうだ。
2010年1月16日の橘川さんのブログから、該当部分を引用しておく。

リアルテキスト塾の11期生を募集します。今春、開講します。リアルテキスト塾に参加希望の方は、Twitterで@demekenをフォローして「入塾希望」とコメントしてください。日々のつぶやきに対して★を10個もらえると参加出来ます。今春開講予定。月2回、土曜日の夕方2時間程度。授業料は1回3000円。6回で1コースです。リアルテキスト塾は、文章のテクニック教室ではなく「書くとはどういうことなのか」「見るとはどういうことなのか」といった本質的な態度を学ぶ塾です。橘川の「言葉原論講座」「ワークショップ」「世間噺」の3構成になっています。