著者:皆川 一 出版社:角川学芸出版 2009年7月刊 \1,365(税込) 167P
「波瀾万丈」という言葉があてはまる半生記をひさしぶりに読みました。
著者は、経営コンサルタントの皆川一(みながわ はじめ)さん。
まずは、本書に載っている、少し長めのプロフィールをご覧ください。
1957年生まれ。77年、舞台製作会社である(株)創演を創業。
83年から大手商業劇団の製作に関わり、「CATS」や「オペラ座の怪人」
などを手掛ける。
90年、NY・東京姉妹都市提携30周年記念事業『NYCB日本公演Ballet
Capsule』の総合プロデューサーを務める。
同年東宝配給映画「山田ばばあに花束を」(主演:山田邦子)でプロデュー
サーを務める。
93年、経営していた会社が倒産。自殺未遂、自己破産を経験。人生のどん底
を味わうも心機一転、建設業に転身。同業界において「皆川メソッド」と
いう営業手法を確立させ注目を浴びる。
98年、日本教育文化研究所(現・生活文化研究所)に入所、主席研究員を務める。
99年以降は、上場企業をはじめ、多くの企業の経営顧問を務め、その経営
ノウハウを経営者研修、セミナーで公開している。
現在、新たな事業を目指す個人、法人を対象とした企業セミナーを開き、
受講した法人は全国で6000社を超え、経営者の育成に力を注いでいる。
1957年生まれですので私と同い年のはずですが、大学卒業後ひとつの会社に勤務し続けているサラリーマンとは、まったく違う経験をつんでおられます。
ネタバラシ自粛でお送りしている私の書評では、詳しい内容紹介は控えさせていただきますが、これだけいろいろな経験をしていても、皆川さんが人生に臨む姿勢が決して「一か八か」という博打打ち的なものではないことだけはお伝えしておきたいと思います。
皆川さんには、目の前のできごとをいい加減に放置しない真剣さがあります。また、「あとは野となれ山となれ」とは正反対の誠実さがあります。
その理由をお伝えするために、プロフィールにも書ききれない皆川さんのエピソードをひとつだけ書かせていただきます。
それは、皆川さんが渥美清の付き人を経験していること、付き人をやめたあとも渥美清が亡くなるまでプライベートな関係が続いたことです。
私が特に印象的だったのは、渥美清が人を叱るとき諄々と諭すような口調を使っていたことです。
皆川さんがミスをしたときも、静かな口調でミスを指摘し、
「これだけはわかってくれ。な」
と穏やかに語りかけてくれたといいます。
人前で付き人を罵倒している共演者もいましたが、そういう役者をみかけると渥美清は黙っていません。雰囲気が悪くなるからやめるように言い、相手を育てようと思ったら逆効果であることを指摘します。
相手がどんなスターでも、「おとなしくきちんと話してあげなさい」と意見するような人だったそうです。
皆川さんは、渥美清と同じ時間を過ごす中から多くのことを学びました。
170ページ足らずの本に凝縮された皆川さんの半生は、次から次と新しい展開を見せて進んでいきます。あまりにも波瀾万丈すぎて、何か教訓を得る余裕もありません。
読み終えて、もう一度「はじめに」を読んでみると、皆川さんの伝えたいことはただひとつ、
自殺しないでほしい
ということだと書いてありました。
全てを抱え込んで自殺未遂まで至ってしまった皆川さんが訴えたいのは、自殺しても何の解決にもならない、ということです。
日本人の自殺率は高く、特に経済的理由で死を選ぶ中年男性が多いといいます。
皆川さんのように、もう一度人生をやりなおそうとした人の体験を知っていれば、つらい立場にたたされたとき、自分を追い込まないでも済みます。