マエストロ、それはムリですよ…


副題:飯森範親と山形交響楽団の挑戦
著者:飯森範親/監修 松井信幸/取材・構成
出版社:ヤマハミュージックメディア  2009年7月刊  \1,680(税込)  193P


「マエストロ、それはムリですよ・・・」 ~飯森範親と山形交響楽団の挑戦~    購入する際は、こちらから


地方の地味なオーケストラだった山形交響楽団が、一人の指揮者との出会いを機に日本を代表するオーケストラへと変貌していく過程を追うルポルタージュです。


最近、山響がとにかく熱いのだそうです。


まずは、NHKの『発見!人間力』で(↓)飯森さんが紹介された約1分の動画(こちら)をご覧ください。


いかがですか。


指揮者の飯森範親(いいもり のりちか)さん、カッコいいでしょう。
飯森さんの「追っかけ」もいるらしい、と聞いて納得です。


そこそこのクラシックファンの私は、ベートーベンの第9「合唱付き」のステージに11回立ったことがあるのですが、はじめて舞台に立ったときの指揮者が実は飯森さんでした。


飯森さんの指揮は、動きが溌剌としていてアマチュア合唱団にも分かりやすい指揮ぶりです。


印象的だったのが、合唱団にフォルテッシモを要求する場面。
なんと、飯森さんの目が青く光り、体から炎が上がったように見えたのです。


これが指揮者のオーラなんだなあ、と感嘆し、すっかりファンになりました。


あまりコンサートに足を運ぶ機会は多くありませんが、1時間半かけて池袋の東京芸術劇場まで「合唱」を聞きに出かけたこともありますし、今年7月に川崎のミューザで開かれたマーラー「千人の交響曲」も聞かせてもらいました。


飯森さんは、桐朋学園大学の4年生の秋に、指揮者の登竜門で有名な民音コンクール『指揮』(現・東京国際指揮コンクール)で第2位(1位なし)に入賞し、22歳でデビューしました。


その後「仕事の依頼がほとんどない」という時代も経験しますが、日本国内だけでなく海外のオーケストラも数多く客演し、2001年にはドイツ・ヴュルテンベルクフィルハーモニー管弦楽団の音楽総監督に就任するなど、着々と経験を積んでいきます。


ですから、2003年8月に山形交響楽団の常任指揮者の要請のために上京したときも、事務局側には「ダメでもともと」、「どうせ引き受けてもらえない」という気持ちがありました。


意外にも「お引き受けいたします」と即答されたとき、事務局長たちは「えーっ」と驚いてしまったといいます。


常任指揮者を引き受けるからには、短時間でレベルアップし、「山形に山響あり」と全国的に認められるオーケストラにならなければ意味がない。
強い思いを抱き、飯森さんは就任の条件「マニフェスト」を提示しました。


マニフェストの内容は何かというと……


――どうにも記録に残っていない、とのこと。


ルポルタージュのクライマックスにずっこけるようなお話しですが、飯森さんが次から次とマニフェストを送ってくるので、どれが最初のものだったか分からなくなってしまったようなのです。


なにしろ、マニフェストは約50項目に及び、「マエストロ、それはムリですよ…」と事務局が青くなってしまう項目も多かったのです。


たとえば、1年間の演奏会予定を紹介する「年間プログラム」をカラー冊子に変えてください、というマニフェスト
それまではA3サイズの紙を折りたたんだ単なるチラシでした。しかし、年間プログラムは定期会員や賛助会員を募る際に使われる、いわば商売道具です。
「こんな手抜きのチラシを見て、わざわざ会員になろうと思いますか?」という飯森さんの指摘は、的を射たものでした。


事務局が経費をやりくりして、何とかまともな年間プログラムを作ってみると、周囲の目が変わりました。
「山響が変わった」という印象が、一発で相手に伝わったのです。


こうして「音楽家はサービス業」をモットーに、山響を少しでも多くの人に知ってもらう活動が展開されていきました。
きちんと音楽性を高めた上で、もっと自己アピールすることの大切さを山響は学んでいきます。


「常に前向きな気持ちを持つことが将来への成功につながると信じている」、「困難は次へのステップ」という飯森さんの信念が山響に浸透していく過程は、まるで成長企業のレポートのようです。


「今は、“山形の東国原”って言われてます(笑)」と自称する飯森さん。
その飯森さんがご自分の本を推薦している帯の言葉を紹介しておきましょう。

これはクラシック・ファン以外の方にもぜひ読んでいただきたい本です。僕がこれまでの人生で得た多くのヒントがちりばめられており、ビジネスマンや経営者の皆さん、子育てに奮闘する若いお父さんやお母さん、人生の目標が見つけられずに苦しんでいる若い世代の方々に、一歩前に足を踏み出すためのヒントを感じていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。